「本番データを消したことのあるシニアエンジニア」を募集する――そんなエンジニア求人が、就職支援サービス・Wantedlyで公開され、話題になっている。募集しているのは、ECサイト作成サービスを手掛けるBASE。なぜあえて、企業にとって大切な“本番データ”を消したことがあるエンジニアを募集するのか。同社の藤川真一CTOに聞いてみた。
「本番データを消したことのあるエンジニアとは、本番データにアクセスできる権限があり、ミスをすればデータを消す裁量を持っているほど信頼されている人のこと」――藤川CTOはこう話す。
藤川CTOは過去に、モバイル端末向けのTwitterクライアント「モバツイ」を開発していた経験を持つ。自身で本番環境向けのデータを消した経験はないものの、短期間に大量のツイートが集中した際に、ユーザーに迷惑を掛けたことがあると振り返る。
「アクセスが過度に集中した際に、モバツイからTwitterに接続できない状況を招いてしまったことがあった。その1つが『バルス』。テレビで天空の城ラピュタが放送された際、バルスのタイミングでツイートできなければユーザーにとって意味がない。しかし、モバツイはWebサーバを用いているため、アクセスが一度にモバツイ側に集中して遅延が生じ、多くのユーザーに迷惑を掛けてしまった」(藤川CTO)
BASEが「本番データを消したことのあるエンジニア」を募集するのは、こうした理由からだという。大規模サービスの運用で失敗する辛さを心に刻んだ経験があり、ユーザーが困る程度のサービスを責任を持って運営したことがある人こそが、同社の求める人材というわけだ。
「私は今でも本番データを扱う時があるが、その時は本当に心臓がバクバクして、すごく怖い。その怖さは、お客さんに迷惑を掛けてはいけないとか、サービスに対するプロ意識などから来るものだ。だからこそ、われわれが求めるのは、知識だけでなくちゃんと“怖さ”を知っている人。そうでなければ権限を渡せないし、そういう人こそ信頼できると考えている」(藤川CTO)
そういえば、昔誰かもこんなことを言っていた――「スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校、海外のベンチャーキャピタルなどに学生がプレゼンをしに行くと、プレゼンの中身はそっちのけで、まず必ず『あなたは人生でどういう失敗をしたことがありますか?』と聞かれる。そのとき、『私は順風満帆で、失敗なんてしたことなんてありません』と答えたらそこで終了。『出口はあちら。どうぞ、お帰りください』」(「Edu×Tech Fes 2013」の対談より古川享氏)。
(太田智美)
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