ITmedia NEWS >
ニュース
» 2016年08月18日 10時08分 公開

「ペットボトルを見ればどの工場で作られたか分かる」――気付けばペットボトルエンジニア歴30年 コカ・コーラの秘密基地で会った“職人”のこだわり太田智美がなんかやる

社員でも限られた人しか入れない、コカ・コーラの研究開発を行う「コカ・コーラ東京研究開発センター」に潜入してきた。

[太田智美,ITmedia]

 コカ・コーラの研究開発を行う「コカ・コーラ東京研究開発センター」は、決して場所を明かされることがない秘密基地。そこでは、原液の製造や自動販売機の研究、ペットボトルの開発などが行われている。実はここ、日本コカ・コーラの社員であってもなかなか入れないほどセキュリティが厳しい施設。一体何が行われているのか。今回特別に入ることが許されたので、レポートしたい。


コカ・コーラ東京研究開発センター 厚みを測る機械

コカ・コーラ東京研究開発センター

 迎えてくれたのは、コカ・コーラ東京研究開発センターシニアエンジニアの渋谷剛美さん。ペットボトル開発歴30年の渋谷さんがこれまでに開発したペットボトルは「爽健美茶」や「アクエリアス」のものなどさまざま。最近リニューアルされたばかりの爽健美茶のペットボトル(600ミリリットルボトル)も、渋谷さんが開発したものだ。コカ・コーラでペットボトルの開発に携わっている人は、日本にたった3人しかいないという。


コカ・コーラ東京研究開発センター コカ・コーラ東京研究開発センターシニアエンジニア 渋谷剛美さん

コカ・コーラ東京研究開発センター (左)以前のペットボトル、(右)リニューアル後のペットボトル

 ペットボトルの開発が始まってから世に出るまでは約1〜2年かかる。1年間に開発する種類は2〜4種類だという。

 開発時、特に注意するのは強度、握りやすさ、酸素が通りにくいかどうか、バーコードが読み取れるかなど。強度といってもペットボトル単体の強度ではなく、ケースで運ぶ際のつぶれにくさや、店頭で段ボールを重ねたときに耐えられるかを含むという。ペットボトルの模様1つ1つには、デザイン性の他に「強度のための工夫」がある。ブランド側はあまりこうした点を心配しないが、開発チームはやはりここが気になるという。


コカ・コーラ東京研究開発センター ペットボトルの強度を調べる機械

コカ・コーラ東京研究開発センター ここに波形は描かれる

 握りやすさの観点では、人間工学に基づき最適な形状を割り出しているという。男女差や身体の大きさ、力の強さなどに関係なく使いやすいものを選んでいるというわけだ。

 日本コカ・コーラもこれらの研究に長年取り組んでおり、リニューアルした爽健美茶のペットボトルも「人間工学基準数値数式便覧」の資料を参考に作られているそうだ。また、握りやすさには「ふたを開けるときに滑りにくい」という意味も含まれる。ペットボトルに“くびれ”があるのはそのためだ。ちなみにこの“くびれ”ができたのは爽健美茶(2006年)が初だという。


コカ・コーラ東京研究開発センター 握りやすさを示したグラフ(「人間工学基準数値数式便覧」より)。日本コカ・コーラのペットボトルだけでなく、お茶碗やドアノブ、湯呑みの大きさもこれらを基準に作られているという

 酸素の通りやすさは、ペットボトルの厚みが影響する。ペットボトルは「プリフォーム」と呼ばれる試験管のようなものを熱で伸ばして作られるが、より容量の大きいペットボトルを作ろうとするとその分薄くなる。すると酸素が通りやすくなってしまい、中身に影響してしまう。品質管理のため、日本コカ・コーラはこの試験を厳しく行っているという。

 バーコードの読み取りやすさは、以前「綾鷹」のペットボトルでバーコードが読めない店舗が複数あったため気を付けているという。横長に付けられていたほうがレジで読み取りやすいが、デザイン的には縦の方が邪魔になりにくい。またバーコードの配置からラベルのミシン目の位置を決めるため、縦にせざるを得ないこともあるという。今回リニューアルした爽健美茶のボトルもまさにその例。「売り始めはバーコードが読み取れるかどうか、そういうところに敏感になる」と、渋谷さんは話す。


コカ・コーラ東京研究開発センター ペットボトルの元「プリフォーム」。これらペットボトル全て同じプリフォームから出来ている

 他にも、ラベルの機械が対応できる大きさか、ラベルは掛ける位置や持ったときにズレないか、はがしやすいか、どこまでミシン目を入れるか、キャップは外しやすい高さか、賞味期限と製造工場の刻印が見やすいか、冷蔵庫に入る大きさか、自動販売機でちゃんと転がるか――などに気を配っている。

 意外だったのはコカ・コーラ東京研究開発センターが「既存の設備で作れるかどうか」を気にしていたことだ。日本コカ・コーラは、ボトラー社と呼ばれる6つの関連会社で製品を製造、販売しているため、新製品のペットボトル作る際はなるべく彼らの投資が少なくて済むよう考慮しているという。また、工場によって少しずつ設備が違うため、古い工場を含めた全てのラインできちんと製造できるかの確認を行う。渋谷さんによれば「ペットボトルを見れば、どの工場で作られたのか分かる」のだとか。

 「よく言われることだが、お客さんは商品を1〜2秒で決めている。ぱっと取ったときになんだか持ちやすいなとか、ぱっと見たときになんだかきれいだなとか、ペットボトルはそういう存在でいてくれればいい。もちろんポジティブな反応もうれしいけれど、それよりもネガティブの反応がないほうがいい。お客さまセンターに寄せられる声をいつもチェックしているが、『何もない』というのがいい」――渋谷さんは言う。


コカ・コーラ東京研究開発センター 与えられた条件の中で作られるペットボトル。出来上がったときは、喜びよりもホッとするという

 「車のショールームに行ってペットボトルホルダーに入るかこっそり確認したり、店頭に並んだペットボトルがつぶれていたらこっそり直したり、そんな日々。突然ペットボトルを開発しろと言われ、もう世の中にあるものに対して何を開発するんだと思ってから30年。自分はまだペットボトルを開発している」(渋谷さん)

筆者プロフィール

プロフール画像

 小学3年生より国立音楽大学附属小学校に編入。小・中・高とピアノを専攻し、大学では音楽学と音楽教育(教員免許取得)を専攻し卒業。その後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学。人と人とのコミュニケーションで発生するイベントに対して偶然性の音楽を生成するアルゴリズム「おところりん」を生み出し修了した。

 大学院を修了後、2011年にアイティメディアに入社。営業配属を経て、2012年より@IT統括部に所属し、技術者コミュニティ支援やイベント運営・記事執筆などに携わり、2014年4月から2016年3月までねとらぼ編集部に所属。2016年4月よりITmedia ニュースに配属。プライベートでは約1年半、ロボット「Pepper」と生活を共にし、ロボットパートナーとして活動している。2016年4月21日にヒトとロボットの音楽ユニット「mirai capsule」を結成。

太田智美

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.