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仮想空間画廊でVRアートの中を散策してきた

» 2016年10月12日 13時27分 公開
[松尾公也ITmedia]

 東京・阿佐ヶ谷にVR GALLERYという奇妙な画廊がある。JR阿佐ヶ谷駅の高架下にある阿佐ヶ谷アニメストリートの一角にオープンしたVR(仮想現実)専門のアートギャラリー、ソニー・デジタルエンタテインメント傘下の施設だ。

 HTC Viveのルームスケール機能を駆使し、広い空間いっぱいに描かれた3Dアート作品が「展示」されている。

 HTC Viveは部屋の対角線上に2個のセンサーユニットを配置し、その四角形の中をHMDを装着したまま自由に動き回ることができる。

 そんなルームスケール機能を使い、ハンドコントローラーを絵筆とパレットにして空間に絵を描いていくGoogle製アプリTilt Brush。VR GALLERYは、クリエイターがこのアプリを使って作成するスタジオであり、その展示を行う空間、そして発信基地を目指すという。

 現在、VR GALLERYでは水墨画家の土屋秋恆さん、ペインターのLyさんというまったく異なる個性を持った2人のアーティストによる作品展示が行われている。

 このVR GALLERYでHTC Viveを装着し、2人の作品を実体験(仮想現実体験)してきた。両作品はYouTubeで公開されている。

 観客は1人ずつHTC Viveを装着し、センサーにはさまれた仮想ギャラリーに入る。ハンドコントローラーは係員が持つので、ヘッドセットの後頭部から垂れ下がっているケーブルを少しだけ気にしつつ、作品の中を鑑賞しつつ散策できる。

 土屋秋恆「幻夢霞楓図(げんむかふうず)」は水墨画の世界に入り込み、木々をかき分けて歩いていくことができ、ルームスケールの作品というのが重要な役割を果たしている。10時間×3日間の合計30時間をかけた力作だ。

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 Ly「SHITLAND」もモノクロームだが、ポップな独特の空間。Lyさんは渋谷PARCOの壁画でも有名だが、グラフィティアートでできた空間を自由に歩き回るようなイメージ。犬小屋の中に入り込んだらそこに人がいて机で何かやってる、そういう仕掛けもある。

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 Tilt Brushによる制作はリアルなペインティングとは異なる苦労があると、Lyさんは話す。制作にかかったのは4日間だが、HMDをマウントした状態でペイントすると、途中で「VR酔い」が起きてしまい、休憩が必要となった。高いところにペイントするためには脚立を使うこともあるのだが、HMDを装着した状態では間違って手をぶつけたりすることもあり、仮想空間の中で作業することの大変さはあるようだ。だが、テレポーテーション機能を使うと、次々と異なる場所に移動してペイントすることもでき、VRで作業するメリットもあったという。

 Tilt Brushは単に3D空間にペイントするだけではなく、そこに動的な要素をある程度盛り込めるようにもなっている。Lyさんの作品では犬の輪郭がプルプル震えているように見える、光が波のように揺れ動くエフェクトが使われているが、これは明度を変更するなどの工夫によって見つけものだという。

 このようなVR作品は体験するためのデバイスが必要だが、VR GALLERYではそれをできるだけ多くの人に体験してもらうためにVRデータ形式で配布することも考えている。

 VR GALLERYはソニーグループの企業であってもPS VRに限らないプラットフォームフリーで、アーティスト主義であると、ソニー・デジタルエンタテインメントの福田淳社長は語る。

 ここで描かれ展示されたTilt Brush作品は、スマートフォンVR、プロジェクションマッピング、3Dプリンティングなどの、HMDを必要としない展開も考えているという。さらに、このシステムそのものを海外に展開する計画もある。

 Tilt Brushの映像を4K/8Kディスプレイやプロジェクターに映し出しながらライブペインティングを行うなど新しい用途も期待できそうだ。

 既にTilt Brushアーティストとして活躍しているYouTuber、せきぐちあいみさんも、VR GALLERYには興味があると、ポッドキャストで語っている

 せきぐちさんは複数人でのコラボレーションにも期待を寄せていたが、Tilt BrushにMultiplayer modeが発表されたことで、これも実現可能となった。音楽に反応して絵が動く機能も追加され、リアルタイムアートとしての楽しみ方も増えるだろう。

 VRを既に取り入れているビョークあたり、Tilt Shiftのライブペインティングを彼女の音楽と結びつけたステージをそのうちやってしまいそうである。

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