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「星の王子さま」が“VRミュージカル”に 少し異様な鑑賞会に参加してきた

» 2017年02月06日 19時21分 公開
[太田智美ITmedia]

 ヒューマンデザインは2月3日、ミュージカルとVR(Virtual Reality)を融合させた舞台作品「リトルプリンス VR supported by VIVE」をプレス向けに公開した。このミュージカルは、フランスの作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ氏の「星の王子さま」を題材に制作したもの。UEIソリューションズの技術協力を得て、実現した。


リトルプリンス VR

 会場に入ると、半円になった各椅子の後ろにHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とコントローラーが置かれており、HMDを取り付けて本編がスタート。物語の始まりは、飛行機に乗って空を飛び、不時着するシーンのVR映像から始まる。

 空を飛んでいる間、前方から風が送られてくるのだが、このとき演者は手で仰いで風を送っている。HMDに映される映像の飛行機は、実際にサン=テグジュペリ氏がリビア砂漠(サハラ砂漠の一部分)に不時着した際の機体を再現したもの。「星の王子さま」に出てくる主人公の不時着はサン=テグジュペリ氏の過去の体験を元にしたものと推測されており、そのときの機体の色などを忠実に再現したという。


リトルプリンス VR 空を飛んでいるシーン(VR映像)。このとき前方から手動の風が送られてくる

 興味深かったのは、公演中にHMDを装着したり、取り外したりする必要があった点。主人公と飛行士が会っているシーンはHMDに映されたVR映像だったが、主人公の回想シーンはHMDを取り外すよう指示があり、リアルで観賞した。

 正直なところ、公演中のHMDの付け外しは作品に没入している中、ふと現実世界に引き戻されてしまうため純粋に作品を楽しみたいのであれば向かないように思う。実際、演者としても作品への没入という観点からすると葛藤があるという。

 しかし、こんなふうにも考えているようだ――「役者とお客さんの生理は合わないもの。ただ単に、ストーリーを追うことが満足につながるか? それもちょっと違うような気がしている。自分の物語として感じてもらえるかどうかという、新しい体験に挑戦している。自分が作品に参加したり、影響を与えられたら楽しいのでは? そういった、今までと違う可能性を探していきたい」(演者)。


リトルプリンス VR 作品に没入していると……

リトルプリンス VR ふとHMDを外される瞬間が

リトルプリンス VR ここからは生で観賞


リトルプリンス VR HMDを外してゆったりと観賞。途中間に演者が入って観客の肩に触れる演出も

リトルプリンス VR 最後はコントローラーを振ってVR映像上に星を出す。このとき、同じ空間にいる全ての人のコントローラーが映像で見えている状態

リトルプリンス VR ぱたぱた。コントローラーを動かすと星が出てくる

 演奏中は、臨場感を感じるよう観客が座っている椅子を手動で揺らしたり、HMDを付けている途中に生演奏が入ったりといった工夫も。今後の一般公演について関係者は、「同時に見られるのが現状最大10人のため、チケット代だけで費用を賄うのはほぼ難しい状況。となると、やはり大きなスポンサーがつくなどの反響がほしいところ。それが実現したら、一般公開もぜひチャレンジしたいと思っています」と話している。

 現状、そのコスト感と芸術表現の見せ方に試行錯誤しているのも事実。この挑戦が、どこかで日本の芸術文化に新たな道をもたらしてくれることを願いたい。

太田智美

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