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原作レイプとは言わせない──日本IBMの“オタクマーケター”が倍率500倍のSAOコラボを実施できた理由(1/2 ページ)

» 2017年03月07日 08時00分 公開
[山口恵祐ITmedia]

 「業務基幹システムを支えるメインフレーム」「膨大なデータを収集して推論、学習するAI(人工知能)」──いずれも、世間一般的には少々お固く、ビジネス寄りな印象が拭えない話題だが、これらを題材にしながら、応募総数10万件、当選倍率500倍という大きな注目を集めたイベントがある。

 2020年代のVR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を題材にしたアニメ「ソードアート・オンライン」(以下、SAO)の世界を現代の技術で再現したら──そんなイベントを仕掛けたのは日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)だ。成功の秘密は社員の底抜けた作品愛と、強いこだわりにあった。

photo 昨年3月に行われたイベントの様子
イベント開催前に公開された映像。大きな話題を呼んだ

仕掛け人は“オタクマーケター”

 日本IBMは、昨年3月に「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」と題した約200人限定の体験イベントを実施。同社が「コグニティブ・コンピューティング」と呼ぶAI技術や、クラウドサービス「IBM Bluemix Infrastructure」(旧SoftLayer)の要素を取り入れたVRコンテンツを来場者たちが体験した。

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 イベント開催から約1年、「テクノロジーはワクワクする世界。ワクワクする感じで伝えていきたい」──そう語るのは、同社の山口有希子部長(マーケティング&コミュニケーション デジタル コンテンツ マーケティング&サービス)だ。社内で“オタクマーケター”との異名を持つ彼女は、このイベントを仕掛けた張本人でもある。

photo 日本アイ・ビー・エムの山口有希子部長(マーケティング&コミュニケーション デジタル コンテンツ マーケティング&サービス)

 「テクノロジーでどんな未来を実現されるのか、示すようなものを作りたかった。色んなコンテンツを探していたが、SAOはまさにぴったり。未来のゲームは本当にたくさんのデータが必要で、どうテクノロジーを活用すれば実現できるか……考えるだけで、ときめいてしまう」(山口部長)

 同イベントでは、作中に登場する未来のオンラインゲームや、自然言語で会話できるAIキャラクターが、同社クラウドサービスのSoftLayerやIBM Watsonのようなコグニティブ・コンピューティングシステムを基に開発された――という設定となっていた。

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IBM developerWorks TVより

 「海外からの反響も大きかったが、応募条件は日本在住者のみ。驚くことに、グローバルのIBM役員を経由して『参加させてくれ』という話もやってきた。完全なる公平で参加者の抽選を行うという前提なので、お断りした」(山口部長)

photo 「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」

 アニメとのコラボレーションには、社内で反発する声もあったという。しかし、山口部長は「アニメはサブカルチャーではなく、もはやメインカルチャー」であると強調する。

 「プロジェクトの立ち上げ当初は本当に大変だった。社内でも『どうせアニメ・ゲームでアキバ文化でしょ』『IBMのブランド的にどうなんですか』という声が上がった。彼らを説得するために入念なファンリサーチを行い、アニメやゲームのコンテンツが日本でどれだけメジャーなのか、SAOが中高生だけではなく、おじさんやテクノロジーに強い人からも支持されているかをデータで説得していった」(山口部長)

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