pixivはもともと、同人作家のプログラマーが身近なニーズから立ち上げたサービス。スタート当初はラフ程度の落書きから自信作までさまざまな完成度の作品がユーザーから投稿されていたが、徐々に投稿作品が自信作ばかりに偏ってきたという。pixivアカウントをポートフォリオのように使うユーザーが増えてきたため、ラフスケッチをアップするのは気が引けると思われているのでは――と清水さんは分析する。
「ラフスケッチでも、お蔵入りさせてしまうのはもったいない。それでも見たいユーザーはいるし、見せてリアクションをもらうことが次の創作にもつながるはず。創作活動をサポートしたい私たちとしては、ラフな作品でも気軽に投稿できる場所をpixiv以外に用意する必要があるのではないかと考えた」
自信作だけではなく、練習作品、教科書の片隅の落書きでも投稿してもらいたい、お蔵入りさせるよりも、人に見てもらって次の創作につなげてほしい――こんな清水さんの思いを形にしたのがpixiv Sketchだ。
「私たちは『ハードル』を下げたいんです」。清水さんとともにpixiv Sketchを手掛けた川田寛エンジニアリングマネージャーは言う。
「例えば、『SAI』というペイントソフトは絵を描く人から多く支持を集めて、プロでも使うくらいになっている。支持される理由はいろいろあると思うが、個人的には描画線の補正機能が画期的だったのではないかと。思い通りの線って、描くのが難しいじゃないですか。本来は何度も練習しないと書けない。でもそれって『創作』とは別の仕事。『線の練習』というハードルが創作の前に立ちはだかっている。SAIが支持されたのは、そのハードルを下げたからではないか」(川田さん)
「デジタルだからこそすっ飛ばせることって結構あると思う。初心者が専門性を獲得する前にくじけてしまうようなことでも、デジタルならなくせるものもある」(川田さん)
初心者が専門性を獲得する前にくじけてしまうこと。絵描きにとっては「着色」もその1つだ。そこでpixiv Sketchは17年5月、他のイラストソフトに先駆けた機能を搭載した。それが「AI自動着色機能」だ。
17年1月、「PaintsChainer」という自動着色アプリが話題になった。「Chainer」という有名な深層学習プラットフォームを開発する、Preffered Networksのエンジニア米辻泰山(たいざん、@tai2an)さんが開発したアプリだ。線画をPaintsChainerに通すと、色を指定しなくても肌の部分は肌色に、髪や服もそれぞれ適した色に自動で塗ってくれる。線画の中に色を置いておくことで、AIに着色のヒントを与えることもできる。
この自動着色機能を、pixiv Sketchでも使えるようにしたのだ。
「今まで線画まで描いて『人に見せるほどでは』とお蔵入りさせていた人も、そのイラストにAIで自動着色すれば『これなら投稿してもいいかも』と思ってくれるのでは。それで他の人からリアクションをもらって、新しい絵のモチベーションにつなげたり、『次は自分で塗ってみようかな』と思ったり……。AI自動着色は、きっかけを増やすのに良い影響があるんじゃないかと考えている」(清水さん)
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