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巨大ビジネス化する海賊版 悪質「リーチサイト」の台頭、止める策はあるかネットのダークマター(1/3 ページ)

» 2017年11月24日 09時00分 公開
[福井健策ITmedia]

海賊版ダウンロード「年2億冊」 「はるか夢の址」ついに逮捕

 そのいかにも週プレ的な文体にもかかわらず、恐らく現時点でもっとも現場の実感に近いレポートだろう。何かといえば、先日9人の大量逮捕を生んだ“最大最悪の海賊版リーチサイト”「はるか夢の址(あと)」をめぐる、週刊プレイボーイ(週プレ)Web版の記事である。

画像 9人の大量逮捕に至った「はるか夢の址」

 運営母体の紅籍会と共に、長く海賊版界に君臨してきた「はるか夢の址」。同記事によれば、訪問者数は平均で月1300万人、そこを経由してダウンロードされた海賊版コミックは年に実に2億冊というすさまじい規模である。被害額は推計年730億円と報じられたが、これは計算根拠を含めて精査が必要だろう。だがとんでもない数には違いない。毎年、日本歴代2位のコミックス売上を誇る「ゴルゴ13」が50年間がかりで売り上げたのと、同じ冊数の海賊版がダウンロードされて来たというのだ。

 ただし、「はるか」は自ら海賊版を配信する訳ではない。これは「リーチサイト」といって海賊版へのリンクを集めた、いわばリンク集に過ぎない。ではなぜ、その摘発に9都府県の合同捜査本部が総力をあげたのか。

リーチサイトとは……その巧妙な仕組み

 世間には、もっとストレートに海賊版を直接読ませるサイトもある。「リーディングサイト」と呼ばれるタイプで、例えば日本でも逮捕者が出た「MangaPanda」や、今年前半に大きくメディア報道された「フリーブックス」がそれだ。フリーブックスの場合、少なくとも3万5000冊分のマンガや雑誌・小説などをネット上で無料公開し、登場から短期間であっという間に読者を集め、最盛期には月間1500万人が訪問したとされる。それが突如閉鎖されたのがこの5月。筆者も対策に関わっていたので詳細は書けないが、「同業者からのDoS攻撃を受けたから」「身元に肉薄する情報が出回り、出版社の刑事告訴が迫っていたから」などの説がネット上を駆け巡った。無論こちらも大問題で、むしろ急速に深刻化している。

画像 短期間で急成長をとげた「フリーブックス」

 一方、もっと巧妙に立ち回ろうとする海賊版もある。それが「リーチサイト+サイバーロッカー」タイプで、「はるか」はこれだった。どういうものかといえば、海賊版は海外にあるサイバーロッカー、つまりオンラインのストレージサイトに何者かがアップして公開する。「サイバーロッカー自身は海賊版がアップロードされていたとは知らなかったので、日本でいうプロバイダー責任制限法などで免責される」という理屈だ。現実に免責されるかは相当疑問だが、サーバは海外にあるし追及を受けにくいことは事実。権利者が通知すれば個別のファイルは削除されることが多いが、その後何者かがまたすぐにアップしてしまう。絶望的なイタチごっこだ。

 ただ、サイバーロッカー側は海賊版のことを知らない建前だから、自ら例えば「騎士●長殺し入荷しました!」なんて告知はできない。というか何も表示できない。するとユーザーはどこにどの海賊版があるのか皆目わからないから、そこでリーチサイトが登場し、「あそこにある! 騎士●長殺し!」と紹介してくれる訳だ。大量にリンクが揃っている検索サイトみたいなものである。

 「いやそれ違法じゃないのか?」。そこが微妙なのだ。日本に限らず、世界の多くの国で長年の常識は、リンクは自ら著作物を複製した訳でも送信している訳でもなく、単にその場所を示しているだけだから著作権侵害ではない、というものだった。リーチサイトはいわばこれに乗じて人々を海賊版に誘導する大役を果たす。まさにアップローダー×サイバーロッカー×リーチサイトのトリプルアタックである。

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