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巨大ビジネス化する海賊版 悪質「リーチサイト」の台頭、止める策はあるかネットのダークマター(3/3 ページ)

» 2017年11月24日 09時00分 公開
[福井健策ITmedia]
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 それより何より、海賊版が高額の収益をあげて作家や出版社・アニメ会社に何の還元もないのは、そりゃさすがにアンフェア過ぎるだろう。テクノロジーを駆使して海賊版が巨大ビジネス化する事態は、「破壊的イノベーション」などと言える美しい光景にはどうにも映らないのだ。

対策はあり得るのか?

 ではどんな対策があり得るのか。

 壁(1)の海外ホストサイトについては、「国際協調」に尽きる。現状海賊版の格納されるサーバは旧共産圏などにあることが多く、そこには著作権の専門弁護士すら少なく(いてもこの種問題へのノウハウは乏しく)、また各国当局の協力も必ずしも期待はできない。国際的な専門家チームの育成や、悪質サイバーロッカーへの対策強化を考えるべきだろう。折からEU経済連携協定の大筋合意内容が公開されたが、誰のためにもならない「著作権の保護期間延長」などより、海賊版対策の国際協調こそ進めるべきだ。

 壁(2)の身元を隠す技術についても、技術、そしてやはり国際協調だ。

 最後に壁(3)のリンクだが、もはや「リーチサイト規制」は導入やむなしの時期ではないか。リーチサイトがなければほとんどのユーザーは海賊版にはたどり着けないのであり、違法コンテンツへのアクセス数はリーチサイトの介在で約60倍に増大しているというデータもある。EUなどでは既にリンクを著作権侵害とする判例が確立され、その射程が論争を呼んでいる。確かにリンクの自由は情報社会にとってはかなり根源的な自由で、これは守らなければならない。であるからこそ、悪質なリーチサイトをしっかり定義して、そこに絞った規制をはかる必要があるだろう。

 それでも海賊版のまん延が止まらないなら、もはや残された手は「サイトブロッキング」しかないかもしれない。これはつまり、海外の海賊版サイトには日本からのアクセスを遮断するよう、裁判所がニフティのようなISPに命じることが出来る法制度だ。既にEUではそうした指令があり、英国は2003年、「対象サイトが明らかに知財侵害サイトである」「サーバが海外にあるため他に対処方法がない」などの条件で裁判所が海外サイトへのアクセス遮断を命じられる旨の法改正を終えている。オーストラリアではこれで海賊版視聴が70%減ったとの情報もあり、今後の焦点になりそうだ。事態は、そこまでひっ迫している。

 最後にひとつ。これを絶たれたらどんな海賊版も即時全滅という彼らの絶対の生命線がある。それは「読者」だ。人々が読まなければ海賊版は滅ぶほかない。もちろん、そう言って済むなら誰も苦労はしないが、それでもやっぱりこの言葉で終わりたい。クリエイターを守ることが出来る彼らへの最後の武器、それは読者たちの手に握られている。

著者プロフィール

福井健策

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弁護士(日本・ニューヨーク州)/骨董通り法律事務所代表パートナー/日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授

1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、二次創作や、TPPが著作権そしてコンテンツビジネスに与える影響についてもいち早く論じて来た。著書に『著作権の世紀――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、『「ネットの自由」vs.著作権』(光文社)、『誰が「知」を独占するのかーデジタルアーカイブ戦争』(集英社新書)、『18歳の著作権入門』(ちくまプリマー新書)などがある。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中。

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