動画共有サービスのVineやSnapchatの流行で人気に火がついたショートムービーは、InstagramやFacebookにも「ストーリー機能」として導入され、多くのユーザーに愛されている。
中でも、数年前からZ世代(ミレニアル世代の次にあたる1990年代中盤〜2000年代中盤生まれの若者)に人気を集めているのが「リップシンク動画」、つまり「口パク動画」だ。
音楽に合わせてダンスや口パクする様子を自撮りするリップシンク動画は、セルフィーさえ恥ずかしい人には衝撃かもしれない。
日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。
誰でも部屋に1人でいるときに、お気に入りの曲に合わせて歌ったことはあるだろう。その様子を動画に収め、他のユーザーとシェアして楽しむのが、上海発のリップシンクアプリ「Musical.ly」だ。
動画の撮影・編集・加工・シェア、全てがアプリ内で完結し、作成した動画はMusical.ly以外のソーシャルメディアやメッセンジャーアプリでもシェアできる。
動画の長さは15秒に設定されているため、シェアされる動画のほとんどは楽曲のサビ部分や特徴的な箇所のみを切り取ったもの。早送りやループ再生といった効果をうまく使った中毒性のあるコンテンツが話題になり、2017年にはユーザー数が2億人を突破した。
YouTubeやInstagram同様、Musical.lyにもインフルエンサーが存在する。彼らはコメントやハッシュタグを使ってファンと交流している他、YouTuberが音楽動画投稿用にMusical.lyを利用するケースもあるようだ。
さらに、17年にローンチされたデュエット機能を使えば、自分の動画を他のユーザーの動画と組み合わせ、あたかもデュエットしているかのような動画を作れる。
歌手のブルーノ・マーズはこの機能を活用し、新曲発表時に「#DanceWithBruno(ブルーノと踊ろう)」というキャンペーンを実施。30万本もの動画が投稿されるなど、アーティストとファンの新しい交流の形として注目を集めた。
Musical.lyに類似したアプリには、YouTubeに表示される「ウザい広告」が話題になった、中国発の「Tik Tok」、K-POPアイドルが使い始めたことで人気に火がついた、こちらも中国発の「Kwai」、Musical.lyと同時期にリリースされ、海外セレブの投稿で一気に名前が知れ渡ったドイツ発の「Dubsmash」などがある。機能面では、そこまで大きな違いがないように見える。
しかし中身を見てみると、例えばDubsmashであれば、あくまで音楽が中心のMusical.lyとは対照的に、ハリウッド映画やNetflixなどで放送されているドラマの音声もデフォルトで用意されている。
一方、Tik TokやKwaiはアジア人のユーザーが多いこともあり、韓流ドラマのワンシーンが音声リストに並んでいる。
つまり、Musical.lyは「音楽」という大きな括りでターゲットを集めようとする中、他のアプリはユーザーの「共通のバックグラウンド」や「シェアしたくなる欲求」に訴求することで、熱狂的なファンを生み出そうとしていることが伺える。
リップシンクアプリに限らず、動画プラットフォームの乱立により、クリエイターの獲得戦争が激化していることが背景にあると考えられる。
以前は、動画を投稿するサイトといえばYouTubeと決まっていた。しかし今では、動画の内容や作成する目的、届けたい相手によって変わってくる。リップシンクアプリもその1つとしての地位を確立しつつある。
地位が確立されれば、ユーザーコミュニティーがどんどん形成され、その結果、新たなインフルエンサーが生まれていく。実際、Miscal.lyの人気ユーザーは2000万人を超えるフォロワーを獲得しており、人気YouTuberに劣らない収益を稼ぎ出しているようだ。
今後、もしこの傾向が続けば、新しい人気アプリが登場するたびにコミュニティーはますます細分化していくだろう。だとすれば、広告やモノ・サービスの販売チャネルなど「ビジネスの非中央集権化」も進行していくかもしれない。
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