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“魔法みたいな大学“の学部長はIoTとTRONの父だった坂村健氏に聞くIoTの過去・現在・未来(1/2 ページ)

» 2018年03月13日 16時00分 公開
[今西絢美ITmedia]

 「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という、SF作家アーサー・C・クラークの法則を実証するような"魔法みたいな大学"が東京都北区赤羽にある。東洋大学情報連携学部INIADだ。2017年に開校したばかりのINIADにはビル全体に最先端のIoT設備がこれでもかというくらい組み込まれ、床や壁面に行き先が矢印で投影されたり、自分のロッカーが自動的に開いたり、誰がどこにいるのか分かったり、ホグワーツ魔法学校のようなことが実現されている。これらは学生がプログラミングで制御可能で、INIADでの授業や研究に生かされている。このINIADの学部長が、「IoTの父」、坂村健氏である。

photo フロアの階数をiPadで写すと地図がオーバーレイされる
photo 行き先を示す矢印が壁面と床に浮かび上がる

 最近よく耳にする「IoT」という言葉。「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」として説明されることが多い。IoT化が進むにつれ、これまでは製品単体で操作を制御していた家電や自動車などがインターネットを経由して相互接続され、さまざまな用途が生まれている。その基本的なコンセプトを30年以上前に公開していたのが坂村健氏。最初はHFDS(超機能分散システム)、次に「どこでもコンピュータ」、「ユビキタスコンピューティング」、そして現在の「IoT」と呼び方は変わっても、コンピュータが組み込まれたモノが通信によってつながるオープンな社会を目指すというところは共通している。その実現のために坂村氏が提唱したのがTRON(トロン)プロジェクトだ。

 「TRON」と言っても、ITにあまり馴染みのない人にとっては初めて聞く名前かもしれない。「最近続編がでたSF映画?」「BTRON」「超漢字」「リアルタイムOS」などのキーワードを思い浮かべる人もいるだろう。

 TRONは今では全世界で40%、アジアにおいては60%のシェアを誇る、IoTの核となる組み込みOSなのだ。そんなTRONプロジェクトのリーダーである坂村健氏に、IoTのこれまでとこれから、そして坂村氏が学部長を務める東洋大学INIAD情報連携学部についてお話を伺った。3回に分けて掲載する第1回では、坂村氏が進めてきた「TRONプロジェクト」とは何なのかについて紹介しよう。

photo トロンフォーラム会長の坂村健氏。現在、東洋大学INIAD情報連携学部学部長。YRPユビキタスネットワーキング研究所長。東京大学名誉教授。工学博士。IEEE Life Fellow。紫綬褒章、日本学士院賞、ITU150年記念賞など受賞

1980年代に誕生したTRON

 TRONとは「The Real-time Operating system Nucleus」の頭文字を取ったもので、坂村氏がリーダーとなって1984年から進められているプロジェクトだ。IoTという言葉が使われる30年以上前にスタートした長い歴史を持つ。

 「TRONプロジェクトでは、30年以上前から組み込みコンピュータの研究をやっています。わかりやすいところで言えば、自動車のエンジンの制御やデジタルカメラのファインダー制御部分、携帯電話の電波コントロールなどに使われていますね。小惑星探査機の『はやぶさ2』の制御システムにもTRONは組み込まれています」と坂村氏は話す。

 「TRONを使っているのは日本メーカーだけ」という誤解を目にすることがある。しかし、その答えは「No」だ。名前は明かせないが、世界的に有名なカメラメーカーでもTRON系OSは採用されているのである。TRON採用を公表するか否かはメーカー側に委ねられているため、カシオやリコー、トヨタなどのTRON採用を公開している日本企業の印象が強くなっているのだ。

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