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AIを使うには“疑う力”が欠かせない データサイエンティストがNHK「AIに聞いてみた」に望むこと(2/3 ページ)

» 2019年04月18日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

「不健康が結婚への近道!?」への反論として

 不健康と結婚の関係を探るために、番組スタッフは婚姻率・出生率が1位の沖縄へ取材にいきました。沖縄の婚姻率は1990年ごろから上昇し始めており、ほぼ同時期にそれまで全国1位だった男性の平均寿命は陥落し、以降下がり続けています。

 不健康をどう定義するか難しいところですが、いったん平均寿命と定義して考えると、確かにAIの仮説提言に合致するデータがあることになります。

 では、これを全国47都道府県に範囲を広げて見てみましょう。平均寿命と婚姻率は厚生労働省都道府県別生命表、国立社会保障・人口問題研究所のデータを参考に、期間は1990年から2015年までの25年間で考えてみます。

 この25年間で、平均寿命と婚姻率はどれくらい伸びたのでしょうか。以下の散布図の通りです。ちなみにTableauで作成しているので、インタラクティブに操作したい場合は、こちらを参照してください。

AI

 沖縄は他都道府県と比べて男性平均寿命は延びていませんが、婚姻率も低下していません。一方、各都道府県単位で見ると、平均寿命と婚姻率の相関係数は-0.01で無相関です。

 見方を変えて、今度は5年単位のデータをいったん偏差値に置換します。沖縄県の男性平均寿命は73.91(85年)→61.95(90年)→59.45(95年)→50.37(00年)→49.97(05年)→48.24(10年)→43.30(15年)と変遷しています。

 同じく婚姻率を偏差値に置換して、25年(6行)分の相関係数を見てみると、0.2を上回ったのが21都道県、-0.2を下回ったのが13府県(この中の1つが沖縄県です)という結果でした。何らかの相関を示した都道府県が多くありましたが、実際には沖縄の結果とは真逆の場合も多くあったのです。

 実際には平均寿命偏差値が上がって婚姻率偏差値が下がったケースもあり、沖縄と同じように平均寿命偏差値が下がって婚姻率偏差値が上がったのは宮城県、山口県、福井県ぐらいです。

 また結婚や平均寿命は、食べるものや運動量、結婚観やコミュニティー、都市化など、さまざまな要素が絡み合うものでしょう。これらの理由から、沖縄県のデータを持ち出して「不健康が結婚への近道!?」と提言することに疑問が残った次第です。

 ちなみに、不健康の定義を平均寿命ではなく健康寿命(データ参照元は厚生労働研究ページ)に変えて2010年と2016年のデータに絞って分析して見ましたが、「全体的に沖縄県と同じような結果を示すことは無かった」という結論に至りました。

 少し話が逸れますが、番組では沖縄県の婚姻率を表すグラフとして、グラフのメモリが15〜20で、その間を推移する折れ線グラフが紹介されていました。しかし、そもそも沖縄県の婚姻率は平均6.5、全国的にも5.0程度です。メモリの付け間違いなのか、あるいは私たちが把握していない新たなデータがあるのでしょうか。このデータが何者か分からないので、もしかしたら私の見立てが間違っているかもしれません。

データはどれくらいが望ましいのか? 悩ましい問題

 ここで、今回の分析に使われた三菱総合研究所の生活者市場予測システムのパネルデータに目を向けます。

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