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韓国への輸出管理強化は中長期的に技術移転の加速をもたらす

» 2019年07月19日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 日本の経済産業省が進めている韓国向け輸出管理の運用見直し。まず韓国での半導体や有機ELディスプレイの生産に不可欠な三品目が先行して包括輸出許可制度の対象から外され、日本から韓国への輸出には個別の許可が必要になった。一連の経緯は既報の通りだ。

経済産業省「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」

 今回の件、輸出管理の「厳格化」と報じられることが多いが、本来は手続き上、他国と同等に扱うという意味でしかない。日本政府は「禁輸ではない」と主張しているが、韓国メディアは「7月以降、指定3品目の輸出許可が下りていない」などとして、「事実上の禁輸ではないか」とヒートアップ。いわゆる徴用工問題に関連した政治的な報復と主張し、WTO協定違反に当たると主張している。

 しかし、通常の手続きにおいて輸出許可申請の審査は最大90日、平均すると45日程度といわれており、7月上旬に申請したとしても結果が出る時期ではないため、「事実上の禁輸」という韓国内の報道は拙速だろう。本当に禁輸に近い措置になるかどうか見極めるには、いましばらくの時間が必要だ。

 そもそも軍事転用可能な素材、装置などが第三国へと転売されているといった疑惑が原因であるのなら、審査が厳しく、期間も長くなるのは当然の話だ。軍事転用が可能な部材の輸出管理スキームは数多くの国が導入し、厳格に運用している。そうした国が互いの信頼関係を基に手続きの簡略化など便宜を図る仕組みが「ホワイト国」であったはずだ。

WTO提訴は”その先”を見据えたロビーイングか?

 韓国がWTOに提訴し、受理されたと仮定しても、最終的な結論が出るまでには通常1年以上の時間がかかる。短期的な貿易問題の解決にはつながらない。

 しかし、WTO提訴などを通じて韓国政府は、単一国家にサプライチェーンの一部を依存することが大きなリスクになり得ると印象付けるかもしれない。先端素材や半導体材料などで独占的な地位を築いた日本企業にも、将来的に影響がおよぶ可能性も否定できない。

 時間の経過とともに日本でも影響は広がるだろう。今は半導体材料などを輸出している企業に限られているが、8月以降に韓国がホワイト国から除外されると輸出管理上の優遇措置を受けられない製品や技術が大きく広がる。

 また韓国で半導体やディスプレイパネルの生産が滞るようになれば、それを輸入している日本の製造業も今まで通りとはいかない。例えば韓国LGディスプレイが製造している大型テレビ用の有機ELパネルは、日本のテレビメーカー各社が上位モデルに採用しており、対韓依存率は“ほぼ100%”だ。

大型テレビ用の有機ELパネルは韓国LGディスプレイ製(写真はパナソニックのGZ2000シリーズ)

 この点についてディスプレイに特化した調査会社のアナリストに意見を求めたところ、半導体製品やディスプレイは、発注から納品までの期間が数カ月あるため、事前に生産、検品しているものなどを含め、今後3カ月程度は影響ないというコメントをもらった。これには筆者も同意見だ。例えばテレビメーカーの立場でいえば、今夏の商戦には影響ないことになるが、冬商戦以降は分からない状況といえる。

 さらに中長期的な視点でいえば、今回の出来事で韓国が日本に依存している部品や素材の国内生産や調達先の多角化を進めるきっかけになるかもしれない。今は日本が得意とするハイテク素材などの需要を充分に満たせる韓国のメーカーはないが、技術移転や技術開発を進める企業は国を挙げて後押しされるだろう。また、中国を筆頭に第三国の企業がその役割を担う可能性も否定できない。

 今の状況が続けば、各業界の勢力図も変わる。中長期的には、日本企業も新たなリスクと向き合うことになるかもしれない。

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