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「ピ逃げ」は恥だし役に立たない〜学生たちとの出席頭脳戦〜「ITしぐさ」にツッコミ隊

» 2019年12月30日 10時12分 公開
[松尾公也ITmedia]

 「ピ逃げ」「ピー逃げ」という言葉をご存知だろうか? 年代と職業によっては知らない人も多いと思う。

 「ピ逃げ」の「ピ」とは、主に大学生が受講するときの出席確認として、教室に置かれたICカードリーダーで学生証カードを読み取るときの「ピ」である。つまり、「ピ逃げ」「ピー逃げ」とは、授業の最初にピッと読み取らせて出席扱いにし、そのままエスケープすることを意味する。

連載:「ITしぐさ」にツッコミ隊

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消えた「代返」

 出席日数を重視する講義において、前世紀では「代返」が学生側の主な武器だった。出席者を読み上げたときにその名前の返事を代行してもらうことで、出席をごまかしていた。しかし、出席がICカードにより電子的に管理された世界ではこの技は通用しない。そこで考案されたのが「ピ逃げ」である。

photo 出典:いらすとや

 代返が必ずしも安全策ではなかったように、ピ逃げにも発覚のリスクはある。大学や講師側で様々な対策が立てられているので、当然ながらちゃんと授業を受けるべきだ。授業に出もしない代返と違って、せっかく教室に、始業時間に間に合うように来ているのだ。そのまま出ろよ、と思うのだが、そうではない学生が多いらしい。

 大学教授をしている友人に聞いたところ、対策は講師が個別に行っており、そのノウハウは多様だという。

 「うちの学校では2000年代にICカードを使った学生証と受講システムが導入されました。最初は管理主義だと反対もありましたが、紙の受講カードなどを使ったものより圧倒的に楽なので、講師側からも受け入れられるのは早かったです」と教授。そのうちに「ピ逃げ」「ピー逃げ」と呼ばれる現象が明らかになっていった。「今では学生との腹の探り合いですよ」

 学校や講師によって異なるが、始業時間から数十分の間にピッとやれば出席となり、遅刻にもカウントされない。犯行者はその時間にやってきて帰っていくのである。

 講師側はどう防いでいるか。

 ピ逃げ逃亡者が帰った後に別の方法で確認するという手法がある。講義の途中でICカードリーダーをリセットして「またピッしてね」と学生にお願いする。または、紙の出席票を配り直す。ただし、そのそれを実施する時間はランダムにやらないと、学生に読まれてしまう。まさに「腹の探り合い」なのだ。

 ひょっとしたら、学生証カードが使用されたGPSロケーションと授業が行われている時間帯の参照が行われることになっているところもあるかもしれない。例えば、授業中であるにもかかわらず、学食でそのIDが使われているのをチェックされたりとか。

 じゃあ授業に出ていればいいのかというと、そうでもないと、この教授は話す。「授業中ずっと寝ていたにもかかわらず、終わった後で、パワポの資料くださいと言ってくる子がいる」のだという。

 「パワポの使い方、よく分からないんだよ。昔の人間なんで」と、そういうときには手の内を見せずにあしらっているそうだ。

 これはITリテラシーが比較的低いと思われる文系大学での話だが、理工系大学ではさらに高度な頭脳戦が行われているかもしれない。

photo ジャーニー「Escape」

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