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新型コロナ接触通知技術「Exposure Notifications Express」が登場しても「日本ではCOCOAが必要」な理由(2/2 ページ)

» 2020年09月04日 17時37分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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COCOAがいらない、は「間違い」だ

 「アプリがなくてもいいならその方がいい。もうCOCOAはいらないのか」

 そんなふうに思った方、ちょっと待った。そうではない。特にiOSの場合、iOS 13.7以降では、OS上にわかりやすく「接触通知」という項目が現れるので、いかにも「もうアプリは不要になった」ように見える。

photo COCOAなしでも接触通知が使えるかのようだが……

 しかし、そうではないのだ。現実にはCOCOAは必要だ。「不要ではないか」という説がSNSなどを通して拡散されたこともあってか、厚生労働省は自らのTwitterアカウントで、「COCOAは必要」との説明を拡散した。

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photo 厚生労働省の公式ツイート

 厚生労働省だけでなくGoogleも、「日本ではCOCOAを利用する形で、当面ENEは関係ない」とコメントしている。

 理由は2つある。

 1つは、接触通知のシステムはあくまで「その国の保健衛生に関わる機関」(日本なら厚生労働省)が運営するものであり、彼らの動作確認やデータベースとの接続なしには成立しない、ということ。現状はその段階になく、あくまで「アプリでの運用」が日本での方針になる。特に、陽性者データベースである「HER-SYS」との連携確認は必須だ。

 COCOAの導入にも関わった、内閣府・新型コロナウイルス感染症対策テックチームは、「OSでの対応」について、7月末の段階で以下のようにコメントしている。

OSレベルになって、アプリが不要になるのであれば、オプトインは守りながら、より多くの方に届くのは良いことだと思う。ただ、詳細は把握していない。ひとつ言えるのはOSレベルで完結するのではない、ということ。各国の保健衛生当局との連携は必要。日本で言えばHER-SYSです

 2つ目は、「通知だけでは完了しない」こと。通知されたらどう判断すべきか? どう連絡をして、どう生活すればいいのか? その情報は、現状COCOAを起点に提供する形になっている。「よく分からない」「不便だ」という声もあるが、厚労省の担当者によれば「9月中にはアップデートの予定」ということなので、そうした表示や導線にも手が入ることだろう。

 先ほども説明したように、ENEはあくまで「まだアプリが作られていない環境」に向けてのものだ。特に直近では、各州への導入を加速する米国が重要なターゲットになっている。そして今後さらに、アプリが作れない国に導入されていく。ENEの正式稼働は9月末の予定で、各国・地域での稼働はそこからだ。

 日本として、「アプリなしの方が手軽だ」と判断してCOCOAからの切り替えがある可能性は「ゼロではない」が、その予定になっているわけではない。なのであくまで「COCOAを入れる」のが前提だ。逆にいえば、「入れるだけ」なので、なにか大きな負担が増えるわけでもない。

 アプリから切り替えるにしても、アプリの開発やサポートを切り替えた上で、告知などのあり方も変えていく必要があり、すぐにできるわけではない。

 ENEでもENSでも、OSやGoogle開発者サービスの最新版へのアップデートは必須。それを促す必要があるという意味では、アプリを使うのもOSに依存するのも同じことである。

 そして、特に日本の場合、重要なのは「濃厚接触と通知が出た人が戸惑わずに対応できる導線を強化すること」であり、「HER-SYSへの登録量と更新速度を上げること」だろう。それは多くの部分がENSやENEの外にある「運用」の部分である。大変な時期なのは分かっているが、厚労省にも、この仕組みがより有効に活用されるよう、利用者の視点に立った運用方針の策定とその実行を望みたい。

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