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PlayStation 5体験取材から考える、PS5の「狙い」と「課題」(2/3 ページ)

» 2020年10月08日 13時21分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「読み込み高速化」と「DualSense」こそが差別化要因

 ではその可能性とはなにか?

 画質はもちろん重要。それはとても大きな魅力なのは間違いない。

 だが、画質が上がることは1要素でしかない。むしろ、他の要素を含めて「ゲームの可能性を高められる技術」という観点が重要だ。

 という話をすると、われわれは「圧倒的に優れた技術を投入して差別化を」と考えがちだ。だが、技術は魔法ではないので、同じレベルで争うトップメーカー同士ならば、考えることも選択できるポイントも似てくる。特にゲーム機においては、SIEと米Microsoftが同じ米AMDをパートナーにする以上、基本路線も変わらない。ざっくりいえば、性能の上がったマルチコアCPUにリアルタイムレイトレーシングまでを視野に入れたGPU、SSDで高速な読み込みに特化、というところだろうか。

 その上で違いが出るのは、「どこをさらに最適化、差別化するか」というポイントになる。

 PS5の場合、それは明確に「読み込み速度のさらなる最適化」と「DualSenseというコントローラー」だ。

 体験プレイで分かったのは、読み込み速度の高速化がストレスを減らす、というシンプルな事実だ。PS5世代のリッチで大規模化したゲームであっても、やられた後のロード待ちがなくなるのは驚きだ。リッチ化しつつ快適さを増すのは難しいのだが、PS5はそれを実現している。

 さらにこの要素は、これまでゲーム開発上「禁じ手」とされてきた発想の多くを解き放つ可能性がある。ゲームからの離脱を防ぐため、「面白くなりそうだが、ロード時間が長くなるので採用できなかった」要素はたくさんある。

 現在の大規模なゲームでは、一部のデータだけを逐次置き換えることで「どこまで移動してもロードが感じられない」ようにする手法が採用されている。だがこの場合でも、風景全体がいきなり変わってしまうようなやり方はできない。読み込み速度の制限から、置き換えられる風景のバリエーションには限りがあるからだ。

 だが、読み込み速度が劇的に高速化するなら、そうしたシーンでの自由度も変わる。例えば、米Insomniac Games開発によるPS5専用タイトル「Ratchet & Clank: Rift Apart(仮称)」では、空中に現れる穴をくぐり抜けると「完全にスタイルが違う空間」に飛び込める。これも一つの例だが、「今までになかったほどディテールが細かなCGモデルを読み込みながらゲームをする」とか「出てくる敵キャラクターのバリエーションを圧倒的に豊かなものにする」など、いろいろな可能性がある。

「Ratchet & Clank: Rift Apart(仮称)」のプレイ動画。グラフィックスの美しさも特徴だが、2分50秒くらいから始まる「空間の穴」を飛び越える演出の連続に注目
photo Ratchet & Clank: Rift Apart(仮称)の「空間の穴」の先の展開は一瞬だ

「DualSense」もプレイの可能性を広げる

 振動によって細かな演出を加えられるし、ゲーム展開に応じてトリガーの重さを変えられる「アダプティブトリガー」は、操作の一体感を増す上で大きな役割を果たすだろう。

photo DualSenseワイヤレスコントローラーのL2、R2にはアダプティブトリガーが組み込まれている

 コントローラーを使ったゲームの世界は、ある意味「見立て」で成立している。スティックを前に倒して走ることも、トリガーを引くことも、現実世界を走り回って銃を撃つこととは大きく違う。空中でジャンプボタンを押して「2段ジャンプ」するのも、ダッシュボタンを押して加速するのも「見立て」である。

 コントローラーを変えることは、ある意味で「見立て」の幅を広げることである。

 そういうことが世界一得意な企業は、SIEではなく任天堂だ。「見立て」の幅を広げるためにはコントローラーの形すら変える。

 一方でSIEは、「コントローラーを握る」というスタイルは変えなかった。ある意味保守的だ。だが、「ソファに座ってコントローラーを握る」という古典的なスタイルは変えないまま、そこでの「見立ての幅」を広げてきたのが、PS5の美点であり、最大の特徴でもある。ゲームを大幅に変えてしまうのではなく、ゲームにスパイスを振りかけることで味わいを変えてしまう方法論を選んだという言い方もできるだろう。

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