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バッタの耳をロボットのセンサーに バイオハイブリッドロボット「Ear-Bot」Innovative Tech

» 2021年03月12日 06時30分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 イスラエルのテルアビブ大学研究チームが開発した「Ear-Bot」は、バッタの耳(鼓膜器官)をセンサー機能として移動式ロボットに統合したバイオハイブリッドロボットだ。バッタの鼓膜器官が音の信号を受信してロボットが応答する。これを利用して、拍手の音に反応して動く車輪ロボットの開発に成功したという。

photo バッタの聴覚器官を分離しロボットに接続することで、音に反応してロボットを操作できる

 昆虫などが持つ優れた生体センサー機能と電子機器を組み合わせた、バイオハイブリッドロボットが注目されている。オスのカイコガの触角でメスのフェロモンを検出しメスの場所まで操作するロボットシステムや、タバコスズメガの触角をドローンに乗せて特定の匂いを追跡するシステムなど、成功事例も多数報告されている。

 今回は広い範囲の周波数に敏感なバッタの鼓膜器官のみをセンサーに活用する移動式ロボットを開発。品種は砂漠に多く生息するサバクトビバッタ(エジプトツチイナゴなどとも呼ばれる)を活用する。

 今回はバッタの鼓膜器官のみを使用するため、切断により分離しなければならない。切断時に気嚢(きのう)を傷つけると聴覚に影響を与えるため、分離は非常に慎重に行う。切断後は聴覚神経が弱らないよう、すぐに生理食塩水の緩衝液に入れる。

 当然ながら、分離した鼓膜器官を生かし続けなければ機能しない。できるだけ長く活動できる環境と音の検出・変換機能を統合したシステムを構築するため、生体内に近い培養環境をチップ上に構築する「生体機能チップ」(Organ-on-a-Chip)の技術を応用した。

 今回はバッタの聴覚器官を培養環境に保持しながら、検出した音の電気信号(空気中の振動)をロボットへの入力に使う信号に変換する生体機能チップを新たに開発した。

photo (A)バッタ本体のどの位置に鼓膜器官があるかを示す。(B)バッタ本体から鼓膜器官を分離した状態。(C、D)分離した鼓膜器官を流体チップに統合した図

 生体機能チップと接続されるロボットは、生体機能チップからの信号を受信する電子機器類と、2つのDCモーターで駆動する車輪で構成される。

photo ロボット本体の概要

 実験は、拍手に応じて移動するロボット構成でテストされた。ロボットには1回の拍手音で前進、2回の拍手音で後進の指示が与えられた。この結果は、鼓膜器官が拍手音を正確に検出し、拍手の数に応じて指示した方向へ移動させることに成功した。

 この結果は動画で確認できる

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