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握力を増強する強化手袋「Exo-Glove Power」Innovative Tech

» 2021年03月12日 12時33分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 ソウル大学校とKAISTの韓国研究チームが開発した「Exo-Glove Power」(EGPO)は、握る力を増強するグローブだ。EGPOは、物体を把持(はじ)した際の筋肉の動きをEMGセンサーで捉え、そのデータを基に人差し指と中指を内側に曲げる力を生成する。荷物を持つ、ロープを引っ張るといった力仕事が楽になるという。

photo EGPOを着用した様子

 筋肉を動かす際に発生する電気信号や筋電位からは逆に筋肉の動きを読み取れるため、義手などと同様にEMGセンサーを用いて検出できる。

 ただし前腕の筋肉構成は複雑で、特定の筋肉だけを計測するのが非常に難しい。また把持の際には腕も動くため、腕の姿勢の変化も考慮しなければならない。

 研究チームは周辺の他の筋肉と区別でき、腕の姿勢の変化にも対応できる、計測に適切な筋肉を模索した。さまざまな実験を行なった結果、指の屈曲運動に伴い動作する浅指屈筋(FDS)の筋腱接合部(MTJ)が適切と結論付けた。MTJは腕の姿勢が変化しても把持の時にのみ振幅が増加し、他の筋電位との干渉が少なかったからだ。

photo 計測対象の筋腱接合部(MTJ)を記した図

 プロトタイプは、手にはめるグローブ、手首と前腕に巻き付けるリストバンドで構成。グローブには人差し指と中指に柔軟なワイヤーを搭載した。手首のリストバンドにはEMGセンサーが1個。前腕のリストバンドにはコントローラー部やアクチュエーター、バッテリーなどを組み込む。

photo 強化グローブの構造

 このシステムは、把持した時のみ作動する。EMGセンサーが把持した際の筋電位を検出し、そのデータからアクチュエーターが駆動、ケーブル経由で人差し指と中指に搭載の柔軟なワイヤーに伝わり、内側に曲がる力が働く。これにより、内側に曲げる力と握る力が合わさり握力が強化される。

 実験では、15kgの重いバッグを持ち上げる、15kgのバッグに接続されたロープを引っ張るという実用的な動作での性能を検証した。バッグは取っ手を握ったところから作動し、降ろして離すところで解除された。ロープを引っ張る動作においても、細かい頻度で作動と解除が行われ正常かつ連続的に動作することを示したという。

photo バッグの持ち上げとロープの引っ張りによるグローブの作動結果

 今回は、1個のEMGセンサーと軽量のアクチュエーターを採用しているため、グローブを単純化でき、個人差がある筋肉の位置に対して調整が容易だ。そのため現場で使用できる実用性も高いとしている。

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