1月下旬、Xにおいて、SpotifyとApple Musicにおける収益を巡る論争が話題となった。論点を整理すると以下の2項目に集約される。
1980年代から音楽制作業に従事し、ほそぼそながらレコードレーベルを運営すると同時に世界各国の配信サービスに楽曲を提供する筆者からすると、なるほどと同意する部分もあれば、違和感のある言説も多く見受けられた。そこで本稿では、筆者レーベルの実績を示しながら、配信サービスにおけるロイヤリティー分配の実態をコンテンツ提供側の視点で考察してみる。
まず1つ目の論点についてだが、そもそもサブスクリプション(サブスク)型の音楽配信において、単価の比較だけでは各サービスの優劣は推し量れない。
というのも、各サービスともに「1ストリーム=いくら」という固定単価で支払っておらず、ロイヤリティーを決定づける仕組みがそれほど単純ではないのだ。
例えば「Apple Music for Artists」というアーティスト向け情報提供サービスに記載されたロイヤリティーの分配に関する情報を要約すると、次のようになる。
つまり、Appleは、ユーザーへの課金で得た収益から自身の取り分を引き、残りを楽曲の再生数に応じて案分することでロイヤリティー単価を決めている。国やプランごとに基本となる料金が異なるため、月次収益プールの支払い総額は一定ではなく、各プランのユーザーの聴取動向に左右される。
Apple Musicには、個人向け、学生向け、ファミリー向けなど複数の料金プランが存在している。アーティスト向けツール「Apple Music for Artists」上の表記によると「2020年、世界中の500万組以上のレコーディングアーティストにロイヤリティーを支払った」とある。
Spotifyもおおむね同様の仕組みで分配されている。ただしこちらは各種プランと同時に、広告収入による無料プランが存在するので、さらに複雑化する。このような分配の仕組みは、他の海外勢に加え、AWAやLINE Musicといったドメスティックなサービスも同様だと考えればいい。
単価が低くても再生数が多く、結果的に収益が高くなりやすいケースもある。下の表は、美術史学者であると同時に尺八奏者でもある泉武夫氏の楽曲に関するロイヤリティー単価を示したものだ。筆者レーベルでは、30組以上のアーティストの楽曲をのべ二千数百曲提供しているが、個別のアーティストの単価やストリーム数の現状を知ってもらうために、泉氏のデータを抜き出した。
泉氏の楽曲は07年からtunecore(日本のTuneCore JAPANの主要株主)というアグリゲーターを通じて、筆者レーベルから配信している。表にはApple MusicとSpotifyが分配する1ストリームの平均単価、ストリーム数、平均単価×ストリーム数から算出した1年分の売上合計(参考値)をまとめた。ただし2025年の第4四半期の情報は、直近であるため欠けている。
平均単価だけを比較するといずれの期もApple Musicの方が高い数字を示している。だが、ストリーム数を比較するとSpotifyの方が圧倒的に多い。その結果、Spotifyから2倍近いロイヤリティーが支払われている。
これは、ひとえにSpotifyのユーザー数によるところが大きい。25年第3四半期の決算発表において、月間アクティブユーザーが7億1300万人、有料ユーザーを2億8100万人と公表している。一方のApple Musicは、19年に幹部のEddy Cue氏が「6000万人超」と発言したとの報道があるものの、正式なユーザー数は公表していない。
ただしこの例は、尺八のアルバムというある意味グローバルニッチコンテンツである点が大きく影響している可能性もある。日本語で歌唱するようなドメスティックリスナーを対象としたコンテンツであれば、結果はまた違うかもしれない。
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