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動きに貼り付く映像技術「ダイナミックプロジェクションマッピング」の変遷(3/8 ページ)

» 2021年03月31日 23時27分 公開
[山下裕毅ITmedia]

高速プロジェクター

 以上のように、高速ビジョンと高速視線制御ユニットを組み合わせた映像投影は良好な結果を出した。しかし、プロジェクター自体は従来の製品を使用しているため、速度性能が高速ビジョンの速度に追い付いていなかった。そのため、プロジェクターによる遅延、対象物の運動が限定される、映像コンテンツの自由度が低いなどの課題が残った。

 従来のプロジェクターは、静止した対象物への投影を前提としているため、画質面では優れているが、フレームレートは30から120fpsと、高速ビジョンの相方としては性能不足だ。

 高速ビジョンを最大限生かせるプロジェクターの性能としては、次の4つが挙げられる。

  1. 投影フレームレートが高いこと
  2. 映像を計算機から高速に転送できること
  3. 映像を投影開始するまでの遅延が少ないこと
  4. 投影される映像が多階調であること

 これらを全て同時に満たしている必要があった。

 石川グループ研究室は2015年、これらの課題を解決するプロジェクター「DynaFlash」を発表した。この新型のプロジェクターは、DMD(Digital Micromirror Device)と高輝度LED光源を用い、最大1000fpsで8bit階調の映像を最小遅延3msで投影する。

photo DynaFlashの外観

 DMDとは、画素ごとにマイクロミラーが搭載されたMEMSデバイス。この各マイクロミラーに光線を照射し、その反射光をプロジェクターのレンズを通して投影し表示する。映像投影の速度は、各マイクロミラーの鏡面の向きを変化させる際の応答性能で決定する。マイクロミラーの制御に加え、照射する光線の明滅制御を両者の限界性能で連携させることで高速性と多階調を両立している。さらに、独自開発の通信インタフェースにより、画像を高速転送する回路を計算機に搭載し、映像生成から投影までの遅延を最小3msにまで抑えることに成功した。

 基本的にDynaFlashは単体では使用せず、高速なセンサーと組み合わせて使うため、高速ビジョンと連携した実験を行ったところ、人間の目ではズレを知覚できないレベルの高速投影を実現した。動画では、手に持った平面スクリーンを激しく揺さぶっても追従しぴったり貼り付いているように投影し続ける様子が確認できる。

 DynaFlashが発表された2015年から2016年あたりは、ダイナミックプロジェクションマッピングにおいて大きく進歩した年であり、重要な技術発表が重なった年だ。

 東北大学 鏡研究室は同年の2015年、高速にホモグラフィ変換(対象平面やプロジェクターが動いても投影画像がゆがんで見えないように補正する技術)する機能と、直接制御のDMDを統合した高速プロジェクターによる投影システム「Sticky projection mapping」を発表した。

 本システムは、入力映像に対して高いフレームレートでホモグラフィ変換を適応したものを投影映像として出力する。カメラとプロジェクターのキャリブレーションを不要とし、450fpsで動作。これにより、対象物の平面を任意の方向や姿勢に素早く動かしても画像の長方形を維持したまま追従し、まるで貼り付いているかのような投影を実現する(YouTube動画)。

photo プロトタイプの高速プロジェクター

 パナソニックは、2016年1月に開催のCES 2016にて、、対象物に高速で追従して投影を行うプロジェクションマッピング技術を展示した。デモンストレーションでは、踊るダンサーの動きと形状に追従し、衣服や顔などに投影し続けるパフォーマンスを披露した。

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