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» 2021年04月27日 11時41分 公開

見る側の知見が試される、「切り抜き動画」の未来 実際に切り抜いて改変してみた小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

プロならば、動画は編集技術次第で文脈をいともたやすく変えられる。

[小寺信良,ITmedia]

 「ネットリテラシー」は、もはや使い古された言葉になってしまった。「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」と、ひろゆきこと西村博之氏が言ったのは、2000年に発生した西鉄バスジャック事件、俗に言う「ネオむぎ茶事件」のときであるから、なんと今から20年以上前のことである。

 掲示板やSNSは、一般人が誰でも書き込みできる。従って、言質や裏を取ったりしていない、嘘か誠か怪しげな情報や、悪意の有無にかかわらず人をだまそうとする情報が拡散されていることは当然という前提で利用しなければならないことは、この瞬間に広く浸透したのだと思う。

 あれから20年、一般人がネットに発信できる情報は、テキストに限らなくなった。写真、動画、音声など、さまざまなスタイルで自分の意志を伝えることができる。そこでもまた、新しいリテラシーが必要になった。写真が真実を伝えていたのは過去の話で、Instagramに上がってる写真と本人が全然違って、「キミ誰?」みたいなことが当たり前に起きている。そのうち履歴書の写真も盛ったヤツを貼ってくる者が出てきて、面接会場で「キミ誰?」みたいなことが起こるだろう。

 そんな中、多くの方は「アマチュアが作る動画コンテンツは、比較的うそがつきづらい」という認識を持たれているのではないだろうか。本人が言ったこと、言わなかったことがはっきりしているのは、ライブ動画である。リアルタイムで伝送されているストリームの中に、意図的に他者がうそを挟むのは、技術的に難しい。

 言った言わないが担保されている半面、ライブ動画は時間効率が悪い。どんなに理路整然と話せる人でも、細かく聞いてみると話が寄り道したり少し戻って繰り返しになったり、その例え話いらんだろみたいなことは起こりうる。従って、「まとめ」や「5分で分かる」的な編集コンテンツは、人気が高い。

動画で「うそ」をつく

 前出のひろゆき氏がYouTubeで行っている、ライブ配信を短く編集して字幕も付ける、いわゆる「切り抜き動画」が人気のようである。ライブ動画だと全部視聴するのに1時間半から2時間ぐらいかかるが、切り抜き動画なら5分から10分程度で視聴できる。また字幕によってポイントも分かりやすい。

 こうしたYouTubeの「切り抜き動画」は、ひろゆき氏のように誰でもやっていいとオープンにしているケースと、メンタリストDaiGo氏のように希望者を審査して限定的にやっていくケースに分かれるようである。今後も人気のライブ配信動画は、こうした「切り抜き動画」の集客性を利用する形で、マネタイズやさらなる集客をアクセラレートさせる方向で動いていくだろう。

 しかし長年映像技術者として映像編集に関わってきた者からすると、こうした「切り抜き動画」の勃興に一抹の不安も感じている。映像編集というのは、実は多くの人が思っているより簡単に、うそがつける技術だからである。

 多くの人が考える編集は、例えば先の「切り抜き動画」にしてもそうだが、時系列を壊さずに不要な部分を切ってつないでいったもの、という認識ではないだろうか。だが映像編集は、前のものを後に持ってきたり、その逆もできる。言葉をつぎはぎして、本人の意図とは違うことを言わせてしまうこともできる。

 しかし多くの人は、そうして作ったうそは見抜けると思っている。編集をすれば、必ず映像にその痕跡が残るからだ。例えば顔の位置や表情が瞬間でジャンプしていたりする。映像上の痕跡を頼りに、これは編集者が意図的に作ったものではないのか、と疑いの目を向けることができる。

 ここで1つ、動画のサンプルをご覧いただこう。このコンテンツは、筆者とジャーナリスト西田宗千佳氏が共同で運営するメールマガジンの、note向けコンテンツの一部である。

オリジナル動画

 動画が見られない環境の方のために、テキストの書き起こしも掲載しておく。

こういうお安いレンズでもそこそこの絵が取れるようになってきたっていうことは大変喜ばしいというかね、実においしい状況になってきてるっていう事情があるんですけど。

じゃあ一本30万とか50万とかするメーカー製のレンズなんかもいらないよ、あんな高い値段出して買うのどうなのって思っちゃう、そういう方もいらっしゃると思うんですけれども、

ああいう高いレンズっていうのは資産価値があるんですよね。

例えば今30万で新品のレンズ買ったとしても、10年20年後に値段が1万2万になるかって言うと、ならないんですよね。希少なモデルだったら逆に買った時より値段高いってことがありえますからね。

そういう意味では動産価値があるので、一概にその高いレンズはお金の無駄だとかそういったことでは全然ないんですよね。

 この喋りを、ある悪意のある編集者が以下のように編集したとしよう。

誘導1

 テキストにすると、以下のようになる。

こういうお安いレンズでもそこそこの絵が取れるようになってきたっていうことは大変喜ばしいというかね。実においしい状況になってきて。

一本30万とか50万とかするメーカー製のレンズなんかもいらないよ、ああいう高いレンズっていうのは、例えば今30万で新品のレンズ買ったとしても、10年20年後に値段が1万2万になる。

高いレンズはお金の無駄だと思うわけです。

 後半は編集によって、全く逆の意味になるようにつなぎ替えている。だがこの動画を見て、本当に筆者がそう言ったと信じる人は少ないだろう。映像をつなぎ合わせてむりやり違うことを言わせても、編集点の痕跡が映像としてはっきり分かるので、ワンカットでそのように喋っていないというのが明白だからだ。

 では、このように編集したらどうだろう。

誘導2
photo 改変後
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