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なぜ「ローカル5G」は企業から熱い視線を浴びているのか? その理由と現状の課題(2/3 ページ)

» 2021年07月27日 07時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

パブリックではないことが大きな強み

 だがパブリック5Gを提供する携帯電話会社も、5Gによる法人向け事業開拓には積極的に取り組んでいる。実績面を考慮すれば、そちらを活用した方がメリットは大きいようにも思える。にもかかわらずなぜローカル5Gが必要とされているのかというと、それはローカルであるが故のメリットがあるからだ。

 というのもローカル5Gでは基本的にその場所でしか利用できない5Gのネットワークを構築することから、外部のネットワークと完全に切り離して運用することも可能。そうすればネットワーク内にある重要な情報が外部に流出することがなくなり、セキュリティを大幅に高められるのである。パブリックなネットワークではないことが、逆にセキュリティを重視する企業から人気を得る要因となっている訳だ。

 また企業が5Gを利用する用途は、主にセンサーで収集した情報や監視カメラの映像をクラウドに送るといったもの。動画視聴などの利用が多いコンシューマー向けとは大きく異なり、ダウンロードよりもアップロードの通信速度が重視される傾向にある。そうした企業独自のニーズに対応し、柔軟なネットワークを構築できるという意味でも、ローカル5Gはパブリックな5Gに比べて大きなアドバンテージを持っている。

photo 「CEATEC 2019」の富士通ブースより。ローカル5Gは場所が限定される分、外部のネットワークと切り離してセキュリティを高めたり、自社のニーズに合ったネットワーク構成にしたりできるのが魅力となっている

 ということであれば、「既にあるWi-Fiネットワークでもいいのでは」という見方も出てくるだろうが、大規模な工場などの本格的なデジタル化を実現する上では、やはり5Gが持つ高い性能、とりわけ低遅延や多数同時接続といった特徴が重要だという声が多いようだ。それに加えて5Gはもともと広域で利用が想定されており、複数の基地局を設置して広いエリアをカバーするのが得意なことから、大規模な工場や倉庫、さらには港湾など屋外の広いエリアで利用する上ではWi-Fiより優位性がある。

 では実際のところ、どのようなシーンでの活用が想定されているのだろうか。これまでのローカル5Gに関する取り組みを見ると、製造業を中心とした工場のデジタル化による業務効率化に向けた実証実験が多いようだ。とりわけ日本は製造業が強いこともあって、ローカル5Gは第二次産業での活用が主体になると見られている。

 だが第二次産業以外にも、農業など第一次産業での活用に向けた実証実験や、自治体の地域課題解決に活用する取り組みなども出てきた。現在は黎明期ということもあり多くの取り組みがPoC(概念実証)レベルにとどまっているが、今後そうした中から実際のビジネス活用に向けた動きが本格化するものが出てくると考えられている。

photo NTT東日本は東京都農林水産振興財団らと、ローカル5Gを活用した新しい農業技術の実証実験を実施。5Gの高速大容量通信を活用し、遠隔地から農作物の様子を確認したり、現場の作業員に指示を出したりといった取り組みを進めている

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