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「逆に何ができないんだ」 ゲーム「ウマ娘」を支える“サイゲ専用シナリオ制作アプリ”が多機能過ぎる(2/2 ページ)

» 2021年11月15日 15時00分 公開
[谷井将人ITmedia]
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執筆の課題 ルールを守るのが大変→意識しなくてもいいようにしよう

 シナリオ執筆には、作品によって文字数や行数の制限、NGワード、キャラクターごとの呼称など、さまざまなルールが設定されている。ミスに気付かず後工程に移ると修正に大きな労力と時間がかかるため、シナリオライターはさまざまな条件を気にしながら作業しなければならなかった。

 そこで、こえぼんではルールを意識しなくても守れるような機能を実装した。一つは文字数行数チェック機能だ。あらかじめ条件を設定しておけば、上限に近づくとシナリオ記入欄が黄色く変色、オーバーすると赤くなるなど、一目で分かるような仕組みになっている。

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 NGワード検出機能では、例えば一人称が「私」のキャラクターのせりふを書く際に「わたし」と平仮名で表記するなどミスがあればアラートを出して表記ゆれやミスを防止。執筆ガイド機能では、その場面に登場するキャラクターのせりふ数から会話バランスを確認できる他、シナリオが分岐した際の各ルートの長さを確認できる。

監修の課題 修正内容を確認したい→履歴と検索機能を強化

 シナリオは執筆と監修を繰り返して徐々に洗練されていく。監修段階では「修正の内容を確認したい」「修正の理由を編集者に尋ねたい」「過去のせりふと矛盾がないか調べたい」などさまざまな要望があった。そこで、こえぼんには、執筆済みシナリオを見ながら修正する機能、コメントを残す機能など基本的な仕組みに加え、ロールバック機能と検索機能を実装した。

 修正前後のシナリオを比較表示できるのはもちろん、いつ誰が更新したかも時系列で確認できるよう記録。ロールバック機能により必要に応じて過去の状態に戻せるようにした。検索機能では、単語の検索以外にも「同じ背景画像を使っているシーン」「最近修正されたシナリオのみ」「音声収録していないせりふのみ」といった情報で検索できるようにした。

品質チェックの課題 誤字チェックにAI活用

 品質チェックの工程では、完成シナリオを見て「にんじん、ニンジン、人参」「走り切る、走りきる」「パソコン、PC」などの表記ゆれや誤字を確認する。表記ゆれは特に一つのシナリオを見るだけでは気付けないこともあるためチェック担当者の負担になっていたという。

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 そこで、こえぼんにはAIによる表記ゆれ、誤字検出機能を実装。ミスがあればハイライト表示するようにした。文脈を確認できるよう前後のシナリオを表示する機能や、検出理由を説明する機能も付けた。

音声収録の課題 台本制作に手間がかかる→1クリックに

 シナリオが完成したら、声優を呼んで音声収録する工程に移る。以前は収録台本をシナリオファイルから自動変換して作っていたが、専用ツールが使いづらかったこと、画像を手作業で添付する必要があったことなどから手間がかかっていた。

 こえぼんでは、収録台本を1クリックでWordファイルとして出力する機能を実装した。声優ごとに読む場所が違うため、せりふをハイライト表示したり、現場でせりふの変更があってもルールを逸脱しないよう文字数を表示したりできる。画像も自動で挿入される。

音声検収の課題 読み間違いチェックが面倒→音声認識を導入予定

 収録した音声は音声検収段階で、ノイズの除去や音量調整、読み間違いの確認などを行う。このとき、シナリオはシナリオチーム、音声はサウンドチームで管理するため、シナリオと音声の関連付けの際にチームをまたいだコミュニケーションが必要だった。部署をまたぐ連絡ではコミュニケーションロスもあり、ファイル数が増えれば確認作業のミスも発生しやすいという課題があった。

 そこでこえぼんでは、シナリオと音声を関連付けて管理する仕組みを導入。シナリオの横に音声ファイルを登録でき、再生ボタンを押すだけでシナリオを見ながら音声を聞いて確認できる。音声の更新があれば、更新者と更新日時を記録。過去のファイルと聞き比べることもできる。今後は、読み間違い確認作業を効率化するため、音声認識技術を活用した自動検収機能も追加する予定だという。

課題を見つけてつぶしていく

 これらの機能実装で、シナリオ制作を取り巻く課題を一つずつつぶしていったCygames。プロジェクト共通基盤チームではこえぼんの他にも、キャラクター同士の関係性を確認できる「キャラマップ」も開発。キャラクターが増えた際の情報更新を効率化するとともに、可視化することで人材の異動にも対応できる情報共有の仕組みを作りだした。

 開発に携わった辻圭祐さん(プロジェクト共通基盤チーム エンジニア)はイベントで「最高のシナリオを作るには、作品作りのための作業時間を確保することが重要。各工程にはエンジニアリングで解決できるさまざまな課題がある。部署やチームを超えて積極的にコミュニケーションをとり、そうした課題を見つけ出すことが大切だ」と語った。

 同社は今後も、Excelなどの操作に慣れた人用にオフィスソフトに似たショートカットキーを充実させる、文章チェック機能を向上させるなど開発を続けるとしている。現場のニーズに合わせた“かゆいところに手が届く”ツール開発がイベント視聴者の心をつかんだ。

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