―― 今回作られたCoeFont音源で合成したオーディオブックが公開されていますが、これを聞いて森川さん本人はどう感じましたか?
森川 今回公開された音声を聞いたとき、辛口なことを言うと「実際に僕がスタジオで読んだものと比べると、まだまだ詰めないといけない部分や問題がいっぱいあるな」と感じました。
文章のつながりとか、人間のエモーショナルな表現ってあるじゃないですか。その時々の自分の気持ちや感情、気分が声に乗ったときに、思わぬ化学反応を起こす。それを聞いて人が感動する。専門的な視点から言うと、もっと本を書いている方の気持ちになってそれを相手に伝える部分を詰めていきたいです。
ただ、今回の音声を聞いた方々の反応を見てみると、僕が思うより好印象で、すごいと思ってくれている人が多かったですね。
―― 表現のプロの視点と、ITの視点でも捉え方が違うかもしれませんね。
森川 いわゆる“間”の部分が表現できるとすごいだろうなと思いますね。音声が出ている部分はどんどん進化していって、もっとクリアでノイズがないきれいな音になっていくと思いますが、音がない部分ってどうなるんだろうと自分の中では感じています。
本を開くと、タイトルと見出が書いてありますよね。そういう部分って声に出して読むときには“立て”ますよね。でも今回作った音源は、本文と見出の読み方に差が無いので、それがAIでも表現できるようになったら、どんどん変わっていくような気がするんですよね。
―― 現状だと、耳で聞いているだけでは本文かタイトルか分からなくて、聞く人が混乱してしまうわけですね。
森川 他にも、例えばかっこで強調されたフレーズやせりふの読み方も人によって違うし、「ここが一番重要なんだよ」っていうことが分かる読み方ができるといいかなと思います。
文章の構造を理解して聞かせるべきところをきちんと聞かせられると最高にいいですね。そうすれば、AIが読み上げたオーディオブックがたくさん読めるようになったときは、僕自身もいろいろ聞いてみたいと思いますね。
―― 逆にAIに勝てないと感じる部分はありますか?
森川 AIが強いのは、疲れないし文句も言わないところですね。僕は、文句とはちょっと違いますけど「スケジュールきついな」とか「休ませてください」とか言います。そこはもう最初から負けているなと感じます。
僕が苦手な本を難なく読んでくれるところもいいですね。片仮名がいっぱい出てくるような専門的な学術書はやっぱり僕も難しいなと思うんですが、AIなら疲れないし文句も言わない。自分が寝ていてもどこかで働いてくれるといいかなと思いますね。
―― 今回完成した森川さんのCoeFont音源は一般公開されませんが、もし自分の声が誰でも使えるようになったとしたら、どう使われたいですか?
森川 僕は、ありがたいことにいろんな方から「聞きやすい、説得力がある声だ」って言われていて、アニメ「鬼滅の刃」でも産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)役をやらせてもらって、炭治郎(役の花江夏樹さん)からも「聞いていると気持ちがいい」って言ってもらえるので、社会に貢献できるような使い方をしてもらえるとうれしいかなと思います。
以前、CoeFontの早川尚吾さんが、声帯摘出で声を無くしてしまう方のCoeFont音源を作って今後の生活に生かす話を聞きました。それで「そういうことってとても大切だな」って思ったし、例えば本が読みたくても読めない方に、僕の声で良ければ使ってもらって、たくさんの本に触れてほしいなと感じました。
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