ガイドラインではまた、メタバース全般の課題についても、論点整理を行っている。具体例のひとつとして挙げられた“アバターの権利”について少し詳しく紹介しよう。
アバターは一般的に、制作者の著作権で保護対象されるものと考えられるが、人の肖像に近づけたアバターなど、創作性が認められず、著作権法の保護の対象とならないアバターも存在する。また、アバター制作ツールを用いてユーザーをカスタマイズして制作した場合には、アバター制作ツールの制作者が著作権者となりうる可能性もある。
このように、アバターを使用しているメタバースのユーザーが、アバターの著作権者とならない場合もある。この場合、ユーザーは自身のアバターに対して著作権法に基づく権利主張ができない可能性がある。
他方で、アバターを人がメタバースで社会活動を行う際の“分身”と考えた場合、アバターはユーザーの人格と1対1で結びつくものと言える。
ここで課題となるのは、例えばアバターの“なりすまし”が発生した場合だ。アバターのユーザーが著作権者であれば、なりすましを行ったユーザーに、著作権に基づいてアバターの使用停止を訴えることができる。他方、アバターの著作権を有していないユーザーは、なりすましているユーザーに対して使用停止を求めることができない可能性がある。こうしたユーザーを救済するために、アバターのユーザーに対して“肖像権”に類似した権利を認めるべきではないかという議論がある。
この議論には、「自身のアバターを勝手に撮影されたくないユーザーに肖像権に類似した権利を認めるか」など、関連した複数の論点が存在する。「バーチャルシティガイドライン ver.1」ではこうした複数の論点を整理して提示している。
その他の論点として、ガイドラインでは複数のメタバース間でアバターなどを相互利用するための相互接続性(インターオペラビリティ)について言及している。これは、複数のメタバース空間が提供されている状況で、例えばアバターを他のメタバースへ持ち込んで利用したり、ユーザーに紐付くデータを連携させたりするといった、情報連携の枠組みの必要性を指摘したものだ。
また、メタバースに関連する技術として、ガイドラインではブロックチェーン技術に基づくWeb3やNFTの活用についても言及している。NFTは分散的なネットワークを通じて、コンテンツに紐付く権利などの情報を保存できる技術となる可能性がある。一方で、NFTは金融関連規制を踏まえた法的整理が進んでいない現状で、投機的な側面で注目されているという課題点もある。ガイドラインではこうした課題を指摘しつつ、「ユーザーの創造性を促す」という観点からサービス設計を行うべきという見解を示している。
この他には、メタバースのプラットフォームが持つ公共性に着目し、過度な監視社会にならないように、民主的でオープンな運営方式の導入する必要性を指摘。プライバシーを重視したサービス設計の必要性などにも言及している。
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