VCと付き合う有効な手だては、2つの方法に大別できる。一つは、事業会社として既存の外部VCファンドにリミテッドパートナー(LP)としていわゆるLP投資をする方法、もう一つは、VCファンドあるいはそれに類した仕組みを自前で設立して運用する方法だ。これを前述のようにCVCという。そして、CVCにはさらにいくつかの形態が考えられる。
VCの仕組みを活用してオープンイノベーションの相手を探すこれらの方法を整理すると、4つの形態になる。
事業会社それぞれの目的やベンチャー投資の経験値などによって、最適な形態は異なるが、ここでは各形態について具体的に解説していこう。
VCは投資家から資金を集めVCファンド(投資事業組合)を組成し、そのファンドを運用している。その投資家は、証券や銀行やアセットマネジメントなどの機関投資家などに加えて、事業会社が参加する場合がある。
その目的は、VCが投資するベンチャー企業の案件情報にアクセスする権利を得ることだ。VCがすでに投資しているベンチャー企業の情報はVCのWebサイトで誰でも確認できるが、事業会社はファンドに参加することで投資先のより詳しい情報や、まだ投資をしていない投資案件情報を開示してもらうといった取り決めをする。これにより、事業会社は新事業創出のために取り組むオープンイノベーションの相手を効率よく発掘できるようになる。
注意が必要なのは、同じ分野に興味を持つ他の事業会社がファンドに出資している場合だ。案件の奪い合いにならないよう、きちんとしたルールを設けるか、他の事業会社が入ってこないような約束を取りつけることが必要になるケースもある。
なおVCは本来、ポテンシャルの高いベンチャー企業に投資をして最終的にキャピタルゲインを得る、つまりフィナンシャルリターン(経済的リターン)を得ることが目的だ。従ってファンドに出資している事業会社の戦略リターン(自社の成長や新規事業の創出といったリターン)は考慮していないといえる。
しかし、VCが持つ情報の提供やベンチャー企業の紹介といった便宜を図ることで多くの事業会社から出資を得ているVCもある。これは本来のVCのビジネスモデルとは異なるが、事業会社にとって役に立つVCだ。
この形態のVCとしては、日本国内ではUniversal Material Incubator(UMI)、海外ではカナダのPangaea Venturesなどがある。
既存のVCファンドにLP出資する場合、他の事業会社とのコンフリクト(衝突)が起きて自社の目的を100%満たせない可能性がある。コンフリクトを避けるためには、既存の外部VCと一緒に自社専用のファンドを立ち上げ、自社の戦略目標のために運用するという形態が考えられる。このような建付けは「二人組合」とも呼ばれ、事業会社がほとんどの資金を提供し、VCが資金の運用を請け負う。
この形態なら、事業会社はファンドの運用そのものには深く関与せず、入ってくる案件を独り占めできる。さらに、事業会社からVCに人を送り、人材育成をしてもらうような取り決めも可能だ。VCがいくつものファンドや二人組合を持っていた場合、自社のファンドを専任で面倒見てくれる優秀なベンチャーキャピタリストを確保してもらうことが重要になる。
二人組は、資金の運用を専門家に任せ、そこに入って来るベンチャー企業の情報を独占できるためメリットが大きい。そうした理由から、この形態を積極的に採用している事業会社が増えている。二人組合を提供するVCとしては、日本国内ではグローバルブレイン(ソニー、KDDI、三井化学などが活用)やSPARX Asset Management(トヨタ自動車などが活用)、米国ではTranslink Capital (NECなどが活用)、Pegasus Tech Ventures(オムロン、清水建設、日本特殊陶業などが活用)などがある。
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