いま、日本経済は停滞している。しかし企業を取り巻く外部環境は急速に変化し、企業間の競争も激化している。こうした中、企業がさらなる成長を追い求めるとき、自社内の経営資源に頼るだけでは成果を上げにくいことはほぼ自明になっている。そこで現実的な選択肢になるのが、他社との協業や協力体制を築くオープンイノベーションだ。
これまで3回に渡り、オープンイノベーションの基礎から事例やベストプラクティスについて解説してきた。最終回となる今回はオープンイノベーションの相手を探す具体的な方法を紹介し、特に最近日本企業の間でも盛んになってきているコーポレートベンチャーキャピタル(Corporate Venture Capital:CVC)を取り上げる。
日本IBM、米McKinsey&Companyを経て、1985年シリコンバレーに経営コンサルティング会社AZCAを設立。長年にわたり日米企業の成長戦略を支援する中で、イノベーションに取り組む企業を間近で見てきた。オバマ政権時代には、ホワイトハウスの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易や経済振興の政策立案に向けた民間からの意見および提言を積極的に行なった経験を持つ。
AIやIoT、メタバースなどテクノロジーが日進月歩で進化し、コロナ禍やSDGsなど企業を取り巻く環境も激しく変化している今、イノベーションを巻き起こして企業の成長を狙う試みがあります。そこで注目が集まる「オープンイノベーション」に焦点を当てた本特集では、取り組む意義や知見を紹介していく。
オープンイノベーションの目的を振り返ってみると、それは企業が将来的な成長の原動力になる新規事業を創出することだった。そのために社内で「戦略プロジェクト」などを立ち上げて取り組んでも、社内の経営資源に頼るだけの戦略では大きな変化は望めない。そのため社外に成長の源を求めるオープンイノベーションの動きに通じるわけだ。
自社に取り入れる新しい技術を見つける基本的な手段としては、アドホックに大学やベンチャー企業を探す方法がある。しかしこの方法は効率の点からは最良とはいえない。そこで、オープンイノベーションの相手、特にベンチャー企業を探すより効率の良い方法として、近年ベンチャーキャピタル(VC)の仕組みの活用が注目を浴びるようになってきた。
なぜVCの活用が効率的なのか。そのわけを考えてみよう。
ベンチャー企業は、自社の製品やソリューションが市場に受け入れられるまでは収入がない。政府の補助金などに頼る場合もあるが、資金的にそれで十分というわけには全くいかない。そこでベンチャー企業は、製品開発を続けるためにVCから資金調達することになる。
一方でVCの方は、成長のポテンシャルが高いベンチャー企業に対して投資して、その企業が買収されたり株式市場に上場したりした際に利益(キャピタルゲイン)を得ることを目的に活動している。
つまり、VCは今後市場で大きく育ち利益を上げそうな技術や製品を開発しているベンチャー企業を常に探している。一方、ベンチャー企業も資金援助だけでなく事業面でのアドバイスなどをしてくれる質の高いVCの支援を受けたいと考える。こうして、いい技術を持ったベンチャー企業の情報はしっかりしたVCのところに自然に多く集まって来るというわけだ。
VCが盛んなシリコンバレーでは多くのお金があるので、そこに多くの人材や技術、情報が集まり、それにより多くのイノベーションが起こることで多くの起業につながっている。実際には起業したベンチャー企業の多くは失敗する(新しく生まれるベンチャ企業の95%は年以内に消滅するといわれている)が、大成功すベンチャー企業も出てくる。VCはそういった「金の成る木」のもとを探して、投資をし、一生懸命に水を注いで、実際に金の成る木に育てようとしている。
従って、オープンイノベーションの相手を探している事業会社は、自社が戦略的に関心を寄せる分野に投資をしているVCの仕組みを活用することで、VCが抱えているベンチャー企業(すでに投資をしている企業あるいは投資を検討しているベンチャー企業)の情報にアクセスする道を開ける。そして、それらの多くは新規事業の開拓に役立つ好材料であるといえる。
そうしたとき、企業(コーポレーション)が自らVCの仕組みを作り活用する場合がある。これをコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)と呼ぶ。米国のデータを見ると、VC全体の投資に占めるCVCからの出資割合は2012年ごろから増えだし、16年以降は40%以上で推移している。これは事業会社がオープンイノベーションの相手を探すために、VCの仕組みの有用性を認識して活用していることの表れだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR