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企業は“成長の糧”をどう得るのか――自前主義が厳しい今、「オープンイノベーション」が生き残りのカギに企業の未来をつくるオープンイノベーション(1/2 ページ)

» 2022年03月23日 07時30分 公開

 コロナ禍は社会にマイナスの影響を多数与えた一方で、“コロナ特需”と呼ばれる好景気に沸いた企業もある。在宅時間の増加による“イエナカ消費”を取り込んだ企業や、半導体の需要増加を受けた半導体関係企業などの多くで業績が向上した。テレワークを支えるIT製品や、マスクや消毒液といった感染症対策グッズも多くの消費者に求められた。

 しかし、このコロナ特需はいつまでも続くわけではない。一時的な需要増加が落ち着いた後、どう動くべきか模索している企業は多い。将来への危機感から、新規事業の開拓など新たな取り組みを始める必要性は広く理解されてきている。

 コロナ禍からどう復興するのか、ニューノーマルな社会でどう生き残っていくのか――今、企業が考えるべきは、コロナ特需の後に備えて何をすべきかだ。その問いに対する答えの一つに「オープンイノベーション」(Open Innovation)がある。

 筆者はMcKinsey&Companyを経て、シリコンバレーで企業コンサルティングを手掛けるAZCAを設立。約40年にわたり企業の成長戦略を支援する中で、イノベーションに取り組む企業を間近で見てきた。オバマ政権時代にはホワイトハウスの有識者会議に出席して貿易や経済振興の政策立案にも参加。今回はこうした知見をフル活用して、オープンイノベーションの意義を解説する。

特集:オープンイノベーションへの招待状

AIやIoT、メタバースなどテクノロジーが日進月歩で進化し、コロナ禍やSDGsなど企業を取り巻く環境も激しく変化している今、イノベーションを巻き起こして企業の成長を狙う試みがあります。そこで注目が集まる「オープンイノベーション」に焦点を当てた本特集では、取り組む意義や知見を紹介していく。

企業は成長の糧をどこから得るのか?

 日本は1980〜90年代初期まで多くの企業が「自社技術に依って立つ」と誇りを持ち、国際的な競争力を維持していた。実際、89年末の東証平均株価指数は過去最高の3万8915円87銭だった。ところがバブル経済の崩壊に伴い、日本経済は暗く長いトンネルに入り、ほとんどの日本企業は守りの経営に移ってしまった。平成の時代は“失われた30年”と呼ばれ、令和の現在でも株価は回復せず、89年当時を3割近く下回ったままだ。

 日本経済の回復が遅い理由は、政策の構造改革の失敗なども考えられる。しかし筆者は、多くの民間企業がリスクを避ける経営にこだわるあまり、イノベーションとそれに基づく新規事業の創出を怠ってきたからだと考えている。企業支援の最前線を見てきた筆者からすると、守りの経営を続ける企業と、イノベーションによる挑戦を始めている企業とでは大きな差が生まれていると感じる。

 企業は成長の糧をどこから得ればいいのか。結論から言うと、その答えはイノベーションだ。中でも自社にない知見や技術を活用できるオープンイノベーションに、日本経済と企業が復活するカギがあると考えている。

イノベーションは“無から何かを生み出す”ものではない

 オープンイノベーションの重要性を説明する前に、まずはイノベーションとは何かしっかり説明しておく。理解するカギは「invention」(インベンション)と「innovation」(イノベーション)の違いをつかむことだ。

 inventionは直訳すると「発明」だ。ラテン語の「in」(その中、その上)と「venue」(来る)を語源としている。つまり発明という言葉は「今までにない新しいものを考え出す」というラテン語本来の意味を見事にくみ取った日本語訳といえる。

 一方で、innovationは「技術革新」と訳すことが多い。イノベーションは難易度が高いと考える人が多いが、その誤解を招く原因は日本語訳だ。語源はラテン語のinに「novare」(改良・改善)を足した言葉からきている。つまり、これまでにあったいろいろな要素を、新しい考え方やアイデアでつなぎ合わせ、従来にはなかった価値を生み出すのがイノベーション本来の意味だ。無の状態から何かを生み出す必要はないため、インベンションより気楽かもしれない。

 イノベーションの分かりやすい説明が「郵便馬車にいくら手を加えても、鉄道を得ることはできない」という例え話だ。この例を紹介したオーストリア出身の経済学者ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターは著書「経済発展の理論」(1912年刊行)の中で「“新結合”(NeueKombination)が起きた時に経済は成長する」と提唱した。古い技術だけいくら改良しても“鉄道”は得られない。新結合、つまり新しい技術や考え方を取り入れることで新たな価値を生み出し、社会に大きな変化をもたらすことがイノベーションなのだ。

 加えてシュンペーターはイノベーションを担う経済主体を「entrepreneurs」(アントレプルナー:起業者)と表現した。一定のルーティンをこなす経営管理者(企業者)とは別物だ。「アイデアを事業化したい」「社会にインパクトを与えたい」「新しい価値を生み出したい」といった情熱が起業者を突き動かす。こうした取り組みが軌道に乗れば企業価値が上がり、結果的には資本主義的な成功にもつながるわけだ。

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