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週末は気球で“宇宙”へ 国内ベンチャーが挑む「100万円台成層圏への旅」 気になる安全面は?(1/2 ページ)

» 2023年02月22日 20時30分 公開
[小野由香子ITmedia]

 国産宇宙ベンチャー企業の岩谷技研は2月21日、気球を使った宇宙遊覧を実現する「OPEN UNIVERSE PROJECT」を開始し、2023年度中にサービスを提供することを発表した。同日から第一期搭乗者5名の募集をはじめ、打ち上げ実施は2023年12月以降を予定している。

キャッチコピーは「『週末、宇宙行く?』が、実現する世界へ。」

 宇宙遊覧は、特別な訓練なしで誰もが成層圏までフライトできるのが特徴。当初の価格は2400万円だが、10年後には100万円台を目指す。同じ成層圏へ飛行するサブオービタルが約6000万円と言われているのと比べると、低価格で楽しめる。また、大規模な離陸スポットを必要としないため、土地開発のコストを抑えるだけでなく、リゾート地など日本のさまざまな場所を宇宙港にできる。さらに、浮揚に使うヘリウムガス以外の燃料を必要としないため、環境への負担も少ないという。

 プランは上昇2時間、滞在1時間、下降に1時間の4時間コース。気象状況により出発日を決定するため、宿泊施設を兼ね備えた1週間ほどのパッケージとなる予定だ。気球は高度2万5000mに到達し、帰還場所は海となる。GPSによるトラッキングと、コンピューターのシミュレーションにより、気球の着陸ポイントを予測。クルーザーが先回りして気球を迎える。

 2023年より運用を開始する独自のキャビン「T-10 EARTHER」は、パイロットと乗客の2人乗り。シートはレザーで、直径150cmのドーム型窓から宇宙を眺めることができる。キャビンの大半がプラスチック製で、機内の気圧変化は旅客機より低く、飛行時の振動は新幹線より低いという。また、大きな温度変化もないとしているが、上空の太陽光による高温状態を防ぐため、表面には窓から入る光や熱を遮断するフィルムを貼るようだ。

2人乗り用のキャビン。材質は大半がプラスチックという
パイロットが1人乗り込む

 なお、パイロットは自社養成を予定しており、搭乗者とあわせて若干名の募集を始めた。気球の特性に慣れるため、まずはガス気球と異なる一般的な「熱気球」から訓練をスタートするという。

「なぜ気球なのか」

 壮大な宇宙遊覧を実現しようとする岩谷技研はどんな会社なのか。社長の岩谷圭介氏は、北海道大学で航空宇宙工学を専攻し、2011年から気球の研究開発を開始。「宇宙事業の実現可能性は気球にこそある」という思いを胸に、16年に同社を設立。これまでに「風船宇宙プロジェクト」「風船宇宙 生物プロジェクト」など、気球に関わる宇宙開発実験に取り組んできた。20年から「気球による宇宙遊覧」を目標に、キャビンや気球の技術開発、宇宙遊覧に向けた実証実験を行っている。

航空宇宙工学を学ぶうちに気球の将来性を見出した

 「気球」に着目した理由として、同氏は「特別な訓練不要で身体的負担が少なく、安全で頑張れば誰もが行ける価格帯である」点を挙げる。今回のプロジェクトは「宇宙の民主化」をテーマとし、これまで限られた人たちだけの活躍の場であった宇宙という領域に、岩谷技研のテクノロジーを軸としてすべての人、あらゆる業種の人が関われるようになることを目指す。

 そのため「共創パートナー」として外部企業とも連携する。宇宙空間を快適に過ごすための衣料、宇宙港や発射場・宇宙リゾート、宇宙産業のための人材育成など、宇宙遊覧に関わる幅広い技術・サービスを、民間の企業とともに作り上げることで、日本発の宇宙産業を盛り上げていくという。最初の共創パートナーはJTBで、ツアーの企画や提案を担う予定だ。

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