全銀ネット障害、いまだ根本原因特定できず メモリ不足の指摘には「分からない」

[芹澤隆徳，ITmedia]

　全国銀行協会（以下、全銀）は10月18日、銀行間の送金を行う「全国銀行データ通信システム」（全銀ネット）で10日から11日にかけて発生した障害について会見を行い、現状を説明した。未だに根本的な原因は特定できず、暫定的な“代替対応”のまま運用しているという。

左から小林健一事務局長兼業務部長、辻松雄理事長、千葉勇一企画部長

　不具合はシステムのリプレース直後に発生した。全銀は7〜9日の3連休を利用し、加盟14銀行の中継コンピュータを「23シリーズ」と呼ぶ新機種に更新した。それまでの「17シリーズ」は各機関に設置していたが、今回は全銀センターに集約して運用する形にした。

　9日までに製品単体試験から相互運転試験までいくつもの試験を行っていたが、不具合は見られなかったという。

　しかし10日午前8時30分。システムが通信を始めると、10行の中継コンピュータで電文の送受信ができなくなった。りそな銀行や三菱UFJ銀行などで他行宛の振込取引ができない状態になった。

中継コンピュータ（RC）でエラーが発生した

　バックアップ体制は有効に働かなかった。ハードウェアは二重化していたものの、今回はハードではなくソフトの故障だったため、両方で不具合が発生した。

　フォールバックもできなかった。システム更新を主導した小林健一事務局長（兼業務部長）は、「仮に実行しようとすると全金融機関の処理を終了する必要があり、時間も掛かる。今回の状況ではとれない選択肢だった」と話す。

　結局、10日は中継コンピュータを使用せず、データファイルや媒体で銀行とやり取りした。データファイルについては障害発生中もバックアップ機能で送受信できたという。

　11日には暫定措置として、中継コンピュータが手数料の入力欄に一律0円を入力するシンプルな形に修正した。これによりエラーは解消したものの、処理に遅延が生じて当日中に完了しない取引が発生している。

当日中に処理が完了しない取引が発生した

原因はテーブルの破損、ではその原因は？

　原因は、顧客から送金や振込の依頼を受けた銀行が振込先の銀行に支払う手数料（内国為替制度運営費）の金額入力方法だった。

　全銀は23シリーズの導入にあたり、手数料の金額入力を、1）金融機関が予め電文に金額を入力して中継コンピュータに送信する、2）予め中継コンピュータに設定されたテーブルを参照し、コンピュータが電文に金額を入力する、という方法を用意していた。今回のトラブルは、2）を選択した10行で発生している。

　さらに夜間や休日の処理を行うシステムに新機種を導入していたJPモルガン・チェース銀行を合わせて11行が影響を受けた。一方、1）を選んだ3行に影響はなかった。

　全銀によると、中継コンピュータでエラーが発生した直接の原因は、銀行間手数料を入力する際に参照するインデックステーブルが壊れていたこと。一部金融機関のコードが読み取れず、エラーが発生した。

中継コンピュータ（RC）が参照するテーブルが壊れていた

　小林氏は「展開されたテーブルが不正な状態になっていた。事前準備の段階で何らかの原因で壊れた」とみている。

　一方、一部報道ではメモリ不足や64bit OSへの移行を問題視しているが、小林氏は「現時点でそれがテーブルにどう影響したか分からない」としている。

正常運用の見通し立たず、利用者には補償

　現在も代替対応のままで正常に運用できていない全銀ネット。しかし早期の正常化は難しい。「原因を明らかにした上で必要な対処をして、確実に（各金融機関に）迷惑を掛けないと確認できた上で対応する」と小林氏。

　一方で、全銀は加盟金融機関と今回のトラブルの補償について申し合わせを行い、18日付で発表した。トラブルの影響で「振込ができない」「着金が遅れた」など、一般利用者が被った追加費用などの直接的な損害に対し、各銀行が前面に立って補償を行う方針だ。

　全銀の辻松雄理事長は、今回の障害を謝罪した上で「当法人の問題のみならず、我が国の決済システム全体の信頼性を揺るがす問題と認識している。原因の究明と再発防止に向け、鋭意検討していく」と話した。