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「全銀システム障害」とは何だったのか 解明まで時間がかかった理由と、待ち構える“茨の道”とは(2/5 ページ)

» 2023年12月28日 10時00分 公開

なぜ更新周期が「8年」なのか

 更新周期が「なぜ8年なのか」という点だが、おおよそ減価償却サイクルにのっとっている。そのサイクルに合わせる形でシステムが次世代のものへと移行していくわけだが(これを全銀ネットでは『レベルアップ』と呼んでいる)、実際にこのタイミングでシステム全ての機器やソフトウェアが一挙に置き換えられるわけではない。日本国内の1000行以上の金融機関が同時に接続しているシステムであり、少しずつ機器やソフトウェアの入れ替えを行いながら、準備が完了した段階で次世代システムの本格稼働の状態となる。

 入れ替えの順番はそれぞれの金融機関が抱えるシステム(後述するが『RC』と呼ばれるもの)の保守期限が切れるタイミング、つまり耐用年数に合わせて決定される。この入れ替え作業中も前述のモアシステムのような仕組みが追加されたりと、全銀システムにおいては新旧システムが混在する期間が存在しており、今回のトラブルは27年に稼働を開始する「第8次システム」の最初の入れ替え作業で発生した。

 現在の全銀システムにおいて、各金融機関は「RC(Relay Computer)」と呼ばれる中継サーバを経由して全銀システムのセンターに接続している。RCには主に2つの役割があり、1つは金融機関が使用している基幹システム(勘定系システム)の送金依頼を全銀システムが求める形式に変換すること(この依頼書は「電文」と呼ばれる)、もう1つは金融機関の基幹システムや通信に何らかのトラブルが発生した場合でも取引を継続できるようRCが“バッファ”の役割を果たすことにある。

 RCは東京と大阪にある2つの全銀システムのセンターへの接続のために最低2系統が用意され、24時間取引のために日中時間帯に稼働する「コアシステム」以外にモアタイムへの接続を行っている金融機関についてはさらに追加での用意が必要であり、1つの金融機関あたり最大4つのRCが稼働していることになる。

 今回の障害は、これまで使用していた「RC17」から「RC23」への置き換え作業中に発生した。RC17の提供は29年に終了予定となっており、移行期間を加味しても第8次システムでは基本的にRC23での運用が求められる。10月7日から9日までの3連休に移行を実施した14行のうち、9つの金融機関で問題が発生した。

 前述のようにRCそのものはバックアップとして2系統での運用が行われているが、今回の作業でその両系統ともに入れ替えが行われたため、10日朝のコアタイム稼働開始時にRC23が内在していた不具合により2つのRCがダウンし、先方の銀行に送金依頼を行う「仕向け」とその逆に送金依頼を受ける「被仕向」の電文処理が行えなくなった。

 オンラインでのリアルタイム送金が行えなくなったことで、障害の発生した金融機関では複数の処理をまとめて「新ファイル転送」の仕組みを用いてファイルをオンラインでアップロードすることで送金依頼を行ったり、全銀システムのセンターに送金依頼を書き込んだテープ媒体を直接持ち込むことで一時的な対策とした。障害発生中、遅いながらも着金するケースがあったのはこのためだ。

2023年10月10日と11日の2日間で発生していた障害の概要(出典:全銀協)

 また、障害が発生してもシステムを止められないというのも24時間稼働システムの難しさだ。全銀システムでは平日の朝8時半から午後3時半までの間はコアタイムのシステムが稼働しているが、この時間を過ぎると次の日のコアタイムが始まるまでの間はモアタイムのシステムに切り替わる仕様になっている。モアタイムの稼働中はコアタイム側のシステムのメインテナンスが可能になり、障害の発生原因となった問題の特定や修正作業が行われる。

 ただし、作業可能な時間はモアタイムの時間全てではなく、それよりは短くなる。翌日の業務開始に合わせてコアタイムの稼働前より作業を開始する金融機関もあり、実質的に使えるのはモアタイム開始から朝4時くらいまでの間となる。10日に開始されたモアタイム中に問題が解決せず、その日は作業を見送り、最終的に11日のモアタイムで「“0円”プログラム」と呼ばれる、問題の発生原因となっていた内国為替手数料を処理する部分を強制的に“0円”で処理してパススルーするという仕組みに書き換えることで、12日以降の取引が正常に行える手段を選んだ。

 結果として、これによりRCが動作しなくなる問題は解消し、現在もなおRC23に切り替えた金融機関はこの“0円”プログラムで動作している。全銀ネットによれば、1月に切り替えを予定している2つの金融機関においても、まだ引き続き“0円”プログラムを適用していくことになるという。

コアタイムとモアタイムの処理の流れ(出典:全銀協)

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