その主な課題というのが、「群衆」「外ロケ」「コスト」の3つだ。
「絵をリッチにするものの一つに群衆があります」「例えば、銀座で数千人が行き交ったり、何百台という車が通ってたりするのは普通の風景じゃないですか。でも、現実的にいま銀座で撮影ってできないですよね。現実問題でできないことをできるようにするのが、バーチャルプロダクションの第一目的」と金子氏は語る。
「エキストラを雇うのってすごく大変なんです。今まで一番多かったので600人というのを経験しましたけど、演技指導がすごい大変なんですよ。助監督さん10人ぐらい呼んでやったり」(金子氏)
バーチャルプロダクションであれば、Unreal Engineでバーチャルエキストラを作成し、何百人という群衆を背景に演者を撮影できる。とはいえ、単に人数を増やすだけだとリアルタイム処理に支障が出てくるようで、スタジオブロスでも最初は「5fpsとかだった」という。そこで同社は、アニメ作品などで手掛けた群衆ノウハウを活用することで、数百人レベルが動かせる状態まですぐに解消している。
また、ドラマ撮影で外せなくなってるのが夏の外ロケ事情。気温の上昇で収録に制約が出てきている。「最近だと夏、外へ撮影に行けないじゃないですか。ほぼ不可能なわけですよ。外にいる時間をできるだけ減らしたいとか、外に行く人数を減らしたいニーズがある」(金子氏)
そして最もニーズが高いのがコスト削減だ。
「何が一番喜ばれるって都内で撮影できることなんですよ」「ロケだと地方に行って役者さんを24時間、何日も拘束するわけです。とてもお金がかかるし、事務所としては(都内なら)その空き時間で他の仕事が入れられる。特にコマーシャル分野でそういう話がある」とのこと。もともとはコロナ禍で移動が制限された時でも、外ロケと同じクオリティを出せることで注目されるようになったバーチャルプロダクションだが、それ以外のメリットにも気付き始めたということのようだ。
その他、テレビ局側でもバーチャルプロダクションを活用するとアナウンスしたところもある。金子氏によると、スタジオコスト削減でニーズがあるようで、番組が固定されがちなスタジオの回転率を上げ、セットに掛かるコストを抑える狙いがあるようだ。例えば、ニュース番組のバーチャルプロダクション対応として、人物などの撮影にUnreal Engineを使い、テロップやグラフィックを出す既存のシステム(Vizrtなど)とUltimatteで合成しましょう――といった提案をする機会も増えたとしている。
バーチャルプロダクションシステムには基本、Unreal Engineが使われる。これはゲームエンジンという出自ならではの、リアルタイムレンダリングのクオリティーが高いことに加え、米Epic側も映像業界のニーズを汲み取ってきたことで普及につながっている。
「テレビのリアルタイムシステムは進んでいるが、絵のクオリティーがドカンと上がるのがUnreal Engineベースのシステム」「開発のスピードが全然違う」(金子氏)
そのリアルタイムレンダリングの品質に加え、アセットを有効活用しやすいというメリットもある。
スタジオブロスでは、以前からUnreal Engineを使った番組制作でNHKに協力しており、その流れでバーチャルプロダクションの技術支援も手掛けている。先述の「どうする家康」では、500年前の背景を再現するため、リアルに存在する500年前の建物を3Dスキャンしアセット化。Unreal Engineに取り入れているという。
そして、このアセットを横展開することもできる。歴史探偵では、テーマとなった時代の様子をVRで探検する企画があるが、「どうする家康」とのコラボ回では、VR用にフレームレートを調整しつつ、ドラマで使用したものと同じアセットを使って収録できたという。こうしたVRへの親和性の高さとアセットの再利用ができるのも、ゲームエンジンを採用しているメリットだろう。
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