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肥満症治療薬「ウゴービ」2月22日発売 増えるオンライン診療、適正使用は守られるか

» 2024年02月21日 18時13分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 国内では約30年ぶりとなる医療用肥満症治療薬が2月22日、発売される。デンマーク製薬大手ノボノルディスクファーマが開発した「ウゴービ」だ。“万病のもと”とされる肥満の治療の選択肢が広がれば、さまざまな病気の抑制や改善にもつながることが期待される。一方、2023年から同様の成分を持つ糖尿病治療薬が美容目的で使われる例が増加。「必要な患者に届いていない」として日本医師会は警鐘を鳴らし、専門家はウゴービでも適切な利用を呼びかける。

 肥満は糖尿病や高血圧などのリスクを高めるとされ、世界的な課題となっている。世界肥満連合(WOF)は23年、世界の人口の半数以上が35年までに過体重または肥満になり、経済への影響は4兆3200億ドル(約648兆円)になると警告した。

 その中で発売されるウゴービは、中枢神経に働きかけて食欲を抑える作用があるとされる。保険診療の対象となるのは肥満症と診断され、高血圧か脂質異常症、2型糖尿病のいずれかの持病がある、などの詳細な条件がつく。

 一方、ウゴービと同じタイプの働きを持つ「GLP-1受容体作動薬」で、糖尿病治療薬として国内ですでに承認されている複数の薬について、製薬企業が出荷制限するケースが23年に相次いだ。背景の一つに、インターネット上で「やせ薬」として広まったことが指摘されている。全額自己負担の自由診療を行うオンライン診療などで使用が増え、需給バランスが崩れた。

 「これらは画期的な糖尿病の薬で、従来の治療薬で血糖コントロールができなかった人も、ずいぶん血糖値が良くなる。しかし23年は新規処方を控えるケースもあった。出荷制限が続けばベストな診療ができなくなる」と話すのは、日本糖尿病学会専門医でふくだ内科クリニック(大阪市)院長の福田正博氏だ。

 このタイプの薬には胃のむかつきや下痢といった消化器症状の副作用が出る。福田氏は2週間に1度程度診察し、経過をみながら処方量を増やすなど慎重に対応するが、オンライン診療では「そこまで慎重にできているだろうか」と懸念する。

 日本医師会も23年10月、不適切な使用は「膵(すい)炎リスクを高める」との海外報告などを紹介、「糖尿病患者に必要量が届く態勢を確立したい」と強調した。

 ウゴービに関して、福田氏は「効果を期待して処方したい患者はいる」とするが、医療現場では「糖尿病治療薬のように真に必要とする患者に行き渡らなくなるのでは」との心配が広がる。厚生労働省は今回、ウゴービの適正使用を図ろうとガイドラインを示した。ただ、自由診療を制限できるわけではないため、実効性は未知数とされる。

 肥満に関連する薬としては今春、大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」も国内で新しく発売される。医師の処方箋の必要がない、薬局などで買える一般用医薬品として注目されている。相次ぐ肥満関連の治療薬登場に期待は高まる。それだけに適切な薬の使用の在り方について議論を深めなければならない。(安田奈緒美)

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