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石丸伸二氏、都知事選躍進の裏にYouTube 310万回超再生も メディアとの関係変化

» 2024年07月09日 10時50分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 7月7日投開票された東京都知事選では、無所属新人の前広島県安芸高田市長、石丸伸二氏(41)が約166万票を獲得し、2位に滑り込んだ。躍進の背景にあるのが、YouTubeの活用だ。選挙期間中、石丸氏の街頭演説や振る舞いを切り抜いて投稿する人も多く、再生回数が310万回を超えたものもある。新聞やテレビなどの大手メディアは告示後、有力視された候補をほぼ均等な分量で報じたが、YouTubeには石丸氏の演説を無制限に視聴できる環境がある。専門家は、「今回がメディアと選挙の関係を変える節目になった」とも指摘する。

photo 東京都知事選の開票状況を確認する石丸伸二氏。無党派層の大きな受け皿となった=7日午後、東京都新宿区(鴨志田拓海撮影)

「切り取り屋」が相乗効果

 「NHKをはじめ、マスメディアが当初、まったく扱わなかった。そういうところだ」

 石丸氏は7日夜、記者団から最初に敗因を問われた際、笑みを浮かべながらこう反論した。東京都新宿区のホールに居合わせた選挙ボランティアらからは爆笑と拍手が起こり、この模様も、YouTuberがNHKの中継動画を切り抜いて投稿。この動画は、8日午後の段階で10万回以上再生されている。

 石丸氏を巡っては、市長時代から市議会で市議と丁々発止でやりあう場面などが、ユーザーの関心を集めそうな場面を切り取って投稿する「切り取り屋」らによって投稿され、多くの再生回数を稼いだ経緯がある。

 今回の都知事選では、石丸氏の陣営がYouTubeにある公式チャンネルで、街頭演説を細かく投稿した。それだけでなく、「切り取り屋」も選挙戦を通じて多くの投稿を行った。あるショート動画は8日午後現在で310万回以上も再生されている。

 ネット上の検索の傾向を測るGoogleトレンドによると、YouTubeでの検索ボリュームは、6月20日の告示以降、石丸氏が小池百合子氏(71)と蓮舫氏(56)を5〜7倍程度離す状態が続いた。投票日の7月7日には、石丸氏と蓮舫氏との差は7.5倍に拡大していた。

 YouTubeには、動画の再生回数に応じて広告収入が入る仕組みがある。「切り取り屋」には石丸氏の純粋なファンもいれば、多くの再生回数を見込み、高い広告収入を求めて参入するケースもあるとみられる。これらが相乗し、石丸氏に絡む動画が多く視聴された形だ。

 YouTubeで視聴が増えた別の要因として、ユーザーが共有した情報などを元に重要と推測される情報を示す、独自の「アルゴリズム」(計算手法)がある。石丸氏の動画を何度も検索したり、長い時間視聴したりした場合は、アルゴリズムによって石丸氏の関連動画がYouTubeの自身の画面に並ぶケースが多い。興味のない情報が遮断され、特定の情報ばかりが表示される「フィルターバブル」と呼ばれる現象に結びついた可能性もある。

テレビよりYouTube視聴者が投票に

 今回の一連の動きついて、報道ベンチャー「JX通信社」(東京都千代田区)の米重克洋社長は「選挙戦の流れを変える節目になった」と指摘する。「これまで『マスメディア』といえば、新聞とテレビ、ラジオ、雑誌の4つがあったが、今回の都知事選では、ここにYouTubeが加わった」とも語る。

 同社の調査では、一日にどのメディアに多く触れるかを尋ねた問いで「YouTube」と答えた人は、「テレビ」より投票所に足を運ぶケースが多かったという。

 今回の選挙戦では、多くの新聞やテレビが、6月20日の告示までは現職の小池氏と立憲民主党の支援を受けた前参院議員の蓮舫氏の対決構図を集中的に取り上げた。

 一方、告示後は、両氏に石丸氏と元航空幕僚長、田母神俊雄氏(75)の4氏、NHKなどはタレントの清水国明氏(73)を加えた5氏を均等に扱い、他候補は名前のみを掲載するケースが多かった。

 放送法は選挙期間中の報道で「政治的公平性」を求め、公選法にも虚偽や事実を歪曲した報道を禁じる規定はあるが、情報量を各候補とも平等に扱うよう求める決まりはない。ただ、大手メディアが一定の自主規制のもとに報道を行うのは、情勢取材などを踏まえて勝敗に絡みそうな候補を区分けし、その範囲内で平等性を確保する狙いもある。

 しかし、読者や視聴者の視点に立てば、今回は大手メディアとYouTubeの間に、石丸氏に関する情報量で大きな開きが見えた形にもなった。石丸氏が無党派層の支持を小池氏より多く獲得できたのも、米重氏は「YouTubeの効果が大きかった」と分析する。

 今回の選挙戦では、蓮舫氏がXにコメントを多く投稿していたが、米重氏は「動画に長い時間接するYouTubeの方が、人を引き付ける力が強い」とも指摘する。「YouTubeが選挙に大きな影響を与える流れは不可逆だ。次の衆院選でも、有権者の判断材料に多用される可能性が高い」とも語る。(水内茂幸)

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