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空自情報流出、国防の脅威招く「承認欲求」 Discordでは米軍でも23年に機密漏えい

» 2024年07月11日 10時20分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 航空自衛隊の内部関係者がチャットアプリ「Discord」にミサイルの未公開情報を流出させた疑いが浮上した。Discordへの漏洩(ろうえい)は2023年、米軍で明らかとなり、20代の兵士が逮捕された。兵士の投稿内容は次第にエスカレートし、機密資料の画像データまでアップされたという。デジタル空間で地位を確立したいとの承認欲求が国防上の脅威に転化したとみられるが、もはや自衛隊もひとごとではない状況だ。

photo 航空自衛隊・飛行開発実験団の戦闘機。未公開の開発情報が漏洩した疑いが発覚した=平成29年11月、岐阜県各務原市

 米国で23年4月、ウクライナ戦争や同盟国に関する機密情報がSNS上で大量に拡散していることが明らかとなり、米連邦捜査局(FBI)が、米東部マサチューセッツ州の州兵空軍に所属の20代兵士を逮捕した。空軍内での階級は1等空兵に過ぎなかったが、IT業務に関する知識などが認められ、機密文書の取り扱いが可能な資格(セキュリティー・クリアランス)を取得していた。

 現地報道によると、漏洩は22年後半からDiscord上で始まった。「OG」のハンドルネームを用い、20〜30人のコミュニティーに軍で知り得た情報を文章で投稿していたという。

 ただ、他のメンバーの反応が思ったよりも薄かったため、関心を引くために機密文書を撮影した画像データを投稿。ウクライナ戦争関連、韓国政府内部のやり取り、中国の兵器開発関連など多岐にわたり、別のSNSやネット掲示板などに転載され、拡散した。

 同じコミュニティーにいたあるメンバーは米ワシントン・ポスト紙の取材に対し、兵士には「友人に自慢したい気持ち」があったと語っている。

 今回、空自関係者が参加したとみられるDiscord上のやり取りを産経新聞が確認したところ、装備品の性能や構造といった関心事に対し、空自関係者を名乗る人物が、根拠を示して答えるという形でのやり取りが目立った。根拠を示す際には「内部」や「機密」、「ガチ機密」といった文言を添えていた。

 空自内部からDiscord上への情報流出問題は、防衛省側による調査が続く。流出の動機は判然としないが、ネット空間上での個人の承認欲求は、米国だけでなく日本においても国防上の脅威となり得る。

 軍事情報のセキュリティー問題に詳しい日本大危機管理学部の福田充教授(インテリジェンス)は「SNSの普及が情報環境の変化をもたらし、漏洩のハードルを下げてしまった。安易な書き込みが懲戒事由や法令違反に当たることを徹底教育し、場合によっては重い処分を科すことも必要だ」と話している。(木津悠介)

相次ぐ情報管理の不備、防衛力強化に水

 自衛隊で情報保全を巡る不祥事が次々と明るみに出ている。海上自衛隊を中心に判明した特定秘密のずさんな取り扱いでは、防衛省は近く関係者を一斉処分する方針だ。今回判明した開発中のミサイルに関する情報漏洩は国防に直結しかねないため、厳しい対応が求められる。

 今回、情報が漏洩した疑いのある「12式地対艦誘導弾能力向上型」は、政府が防衛力強化策の中心に位置付ける長射程ミサイルだ。飛距離を従来より長い1000km以上に延伸改良した上で、戦闘機から発射する空発型や艦艇から発射する艦発型などへの多様化を図る「今もっとも機微な開発案件」(空自元幹部)だ。

 長射程ミサイルは22年末に改定された安保3文書で大幅な増強が決まった。情報漏洩は巨費を投じた国家プロジェクトへの国民の信頼ばかりか、他の装備品での共同開発予定国からの信頼も失う恐れがある。

 空自元幹部は、今回漏洩の舞台になった飛行開発実験団について「しばらく案件が少なかったが、これでは安心して任せられない」と嘆く。防衛省は今後数年で防衛力の大幅強化を目指すだけに、特定秘密のずさんな取り扱いと合わせ、自衛隊全体で襟を正さなければならない。(市岡豊大)

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