このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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オーストラリアのフリンダース大学に所属する研究者らが発表した論文「Probe-Based Mechanical Data Storage on Polymers Made by Inverse Vulcanization」は、探針で穴を開けるようにへこみを付けてデータを書き込み、読み取り、消去を可能にするアプローチを提案した研究報告である。
現在の主流であるHDDや光ディスク、フラッシュメモリには物理的な限界があり、さらなる大容量化が難しい状況である。この課題を解決する新技術として、研究チームは原子間力顕微鏡(AFM)の探針を使って、ポリマー表面に微細なへこみを付けてデータを記録する手法を開発した。この技術の革新的な点は、硫黄を含む新しいポリマー材料を使用したことである。
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このポリマーは硫黄と特殊な有機化合物を反応させる「逆加硫」という方法で作られる。出来上がったポリマー(2種類)には硫黄-硫黄(S-S)結合が多数存在。この結合は加熱により切断と再形成が可能である。この特性を利用して、データの記録と消去を実現した。
従来のデジタルデータは「0」と「1」の2種類の値で表現されるが、この技術ではへこみの深さを精密に制御することで、3種類の値(へこみなし、浅いへこみ、深いへこみ)を表現可能。これにより、同じ面積に4倍のデータを記録できる。
実用化に向けた実験では、約800nmという極めて薄いフィルム状のポリマーでもデータの記録が可能であることを示した。さらに、140度で10秒間加熱するだけでデータを消去でき、繰り返しの使用も可能である。また、電子顕微鏡でもデータの読み取りができることを確認した。
Source and Image Credits: Abigail K. Mann, Samuel J. Tonkin, Pankaj Sharma,* Christopher T. Gibson, and Justin M. Chalker. Probe-Based Mechanical Data Storage on Polymers Madeby Inverse Vulcanization
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