Innovative Tech
他人のスマホを“AirTag”に変えるサイバー攻撃 Apple「Find My」の脆弱性突く 米国チームが発表
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
米ジョージ・メイソン大学に所属する研究者らが発表した論文「Tracking You from a Thousand Miles Away! Turning a Bluetooth Device into an Apple AirTag Without Root Privileges」は、Bluetooth対応デバイスを追跡するための攻撃手法「nRootTag」を提案した研究報告だ。この攻撃は、LinuxやWindows、Androidシステムで有効であり、デスクトップやラップトップ、スマートフォン、IoTデバイスを追跡するために利用できるという。
Appleの「Find My」ネットワークは10億以上のアクティブなAppleデバイスを活用した世界最大のデバイス位置追跡ネットワークだ。本来は紛失したデバイスを見つけるための便利な機能だが、このシステムに重大な脆弱性が見つかった。
従来の攻撃手法では、デバイスを追跡タグに変えるためには管理者権限(root権限)が必要になる。しかし、nRootTagではこの制限を回避し、そのデバイスがひそかに位置情報を発信し続ける「AirTag」のような追跡デバイスに“変身”させられる。
本来、Find Myは特定の形式のBluetoothアドレス(ランダム静的アドレス)のみを受け付けるはずだが、実際には他の形式のアドレスも受け入れている欠陥を研究者らは発見した。
この攻撃手法には、いくつかの前提条件がある。まず、攻撃者は標的のデバイスに悪意のあるソフトウェアのインストールが必要だ。次に、デバイスは「Bluetooth Low Energy機能」を持ち、Bluetoothが有効になっていなれけばならない。さらに、追跡されるデバイスの周囲にFindMyネットワークに参加しているAppleデバイスが存在する必要がある。
攻撃の影響を受ける可能性があるデバイスには、ラップトップやデスクトップコンピュータ、スマートフォンやタブレット、ゲーム機、スマートTV、VRヘッドセット、IoT、電動自転車やスクーターなどのBluetooth対応デバイス(Linux、Windows、Android)が含まれる。
攻撃は主に4つのステップで機能する。まず、悪意のあるソフトウェア(トロイの木馬)がデバイスで実行され、デバイスのBluetoothアドレスに関する情報を取得する。次に、このソフトウェアは攻撃者が管理するサーバに接続し、デバイスのBluetooth IDに一致する特殊なキーを作成するための複雑な計算を実行する。その後、デバイスはAirTagのように見えるシグナルを発信し始める。
最後に、近くを通過するiPhoneやiPad(FindMyに参加しているもの)がこれらのシグナルを拾い、紛失したAirTagを見つけるのを手伝っていると思い込み、位置情報をAppleのクラウドに報告する。攻撃者はこれらの位置情報レポートにアクセスできるようになる。
具体的に、Linuxデバイスに対しては「Attack-I」という手法を採用。WindowsとAndroidデバイスに対しては「Attack-II」という手法を採用してレインボーテーブルにより公開/秘密鍵ペアを発見する。
実験結果からは、この攻撃の実用性が明らかになった。オフィス環境では平均約7分、住宅環境では平均約8分で位置情報が取得可能だった。また静止状態だけでなく、自転車での移動中や飛行機搭乗中でも追跡が可能であることを実証した。追跡の精度も高く、静止状態では約3m以内、自転車で約50m、飛行中でも約70mの誤差で位置を特定できた。
さらに、この攻撃の特徴としてコスト効率の良さが挙げられる。わずか2.76分という短時間で90%以上の成功率を達成するオンラインでの鍵探索に必要なコストはたった2.20ドル程度。このように低コストかつ短時間で高い成功率を実現できることが、この攻撃の現実的な脅威を一層高めている。
このような脅威から身を守るために、信頼できるソースからのみアプリをインストールし、明らかに必要としないアプリにBluetoothの権限を与えることに注意する必要がある。Bluetoothを使用していないときはアプリケーションのBluetooth権限を取り消すことを検討すべきである。
Source and Image Credits: Chen Junming, Ma Xiaoyue, Luo Lannan, Zeng Qiang. Tracking You from a Thousand Miles Away! Turning a Bluetooth Device into an Apple AirTag Without Root Privileges. USENIX Security Symposium 2025
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
2
Anthropic、「Claude Opus 5」公開 Fable 5に迫る性能を半額で――サイバー安全策は緩和、拒否時は自動フォールバックも
-
3
「iPhone高騰」はこれからも続く? 中国CXMTに近づくApple、メモリ競合へのけん制が不発に終わりそうなワケ【後編】
-
4
「ニューロマンサー」実写ドラマ、Apple TV+で2027年1月配信開始へ
-
5
海外の新作バカゲー「電車アタック」にマンガ家が感心した理由 ブッ飛んだ内容と完成度の高さ、そして“日本”
-
6
「めっちゃカメレオン」公式Discord乗っ取り 担当者PCがマルウェア感染、管理者が全員BANに 現在は復旧
-
7
暑さ対策が熱い! 「猛暑対策展」で感じた、転んでもただでは起き上がらない日本人のエネルギー
-
8
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
9
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
10
スーパーに並んだ「ごちゃごちゃ生成AIポップ」が物議 “看板王”こと、きぬた歯科院長「これはアリ」
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR