ロシアのプーチン政権が国内で利用者数の最も多い米IT大手Metaの通信アプリ「WhatsApp」の規制に乗り出す構えを見せている。仮に規制された場合、日本で言えばLINEが使えなくなることに相当する。政権はWhatsAppをロシアから締め出すことで、開発に着手した国産通信アプリなどに利用者を誘導するとともに、国民間のやり取りの監視を強めて反政権的な言動を封じ込めようとしているもようだ。(小野田雄一)
スマートフォン上でのメッセージの交換や無料通話機能を備えたWhatsAppは現在、露国民約1億4600万人のうち約1億人が利用。通信インフラの重要な一角を占めている。
そのWhatsAppについて、露下院情報政策・情報通信技術委員会のゴレルキン第1副委員長は今月18日、「今やロシアからの撤退を準備すべき時だ」と指摘。同委員会のネムキン議員も同日、WhatsAppの存在が「国家安全保障の穴」であり、「その命運は決している」と述べ、規制は確実だとの認識を示した。ネムキン氏は、露国内シェア2位の通信アプリ「Telegram」(運営拠点はアラブ首長国連邦)も規制対象になる可能性があるとした。
こうした発言の背景にあるのは、7月16日に公表されたプーチン大統領から露政府への指示リストだ。リストには「非友好国で作成されたソフトウェア(通信サービスを含む)の利用に関する追加の制限を9月1日までに講じる」と記載されていた。さらに、プーチン氏は6月24日、国産通信アプリを開発することを定める法律にも署名していた。
こうした政権側の動きについて、露メディアは「WhatsAppの規制と、国産通信アプリへの半強制的な移行を示唆している」と分析。また、タス通信によると、露国内では最近、露IT大手「VK」が3月にリリースした通信アプリ「MAX」のダウンロード数が急増したという。MAXは国産通信アプリの母体になるとの観測が強く、利用者はWhatsAppやTelegramが使えなくなる事態に備えているとみられる。
MAXや国産通信アプリはWhatsAppやTelegramと異なり、通信を管理するサーバーが露国内に置かれる。当局にとっては反政権的なやり取りなどの検閲や摘発などが容易になる。
ロシアは2022年2月のウクライナ全面侵攻後、情報統制を過去最高水準まで厳格化。欧米メディアなどのWebサイトに露国内から接続できないようにするなど、自身に都合が悪い情報が広がる事態を防ごうとしてきた。Meta社が運営するSNS「Facebook」と「Instagram」への接続も22年3月に遮断された。
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