　ロシア・カムチャツカ半島付近で7月30日に発生した巨大地震で、気象庁は31日、日本の全ての地域で津波注意報を解除した。政府は津波警報による人的被害として死亡1人、重傷1人、軽傷6人、けがの程度確認中が3人と発表。熱中症による緊急搬送者が11人いるとした。今回のように国外で起きた地震による津波は「遠地津波」と呼ばれ、揺れ自体はわずかなことから避難行動に影響も出た。専門家は地震の性質に関わらず基本動作の徹底を訴える。

分かれた判断

　北海道釧路市の主婦（72）は今回、「津波注意報」の段階で非常用の食料などを手に近くの避難所へ向かった。東日本大震災を教訓に食料や水、ろうそくをまとめて保管していたという。

　同市は1993年1月の釧路沖地震などで被害を受けたことがある。同じく、すぐに避難所を訪れた飲食店経営の女性（51）は「かつて釧路川が津波で逆流したことを私たち世代は知っている。揺れの大小に関係なく、注意報が出たら逃げるつもりだった」と振り返る。

　一方、震源からやや遠い岩手県大槌町の美容師の女性（49）は今回、自宅避難を選択した。スマートフォンに届いた通知で注意報の発令は把握したが、揺れは感じず、「誤作動かと思った。できる限りの備えはした上で、様子を見たほうがよいと思った」。水を入れたポリタンクを2階に運び、待機した。「避難所に行くため低い道路を通る方が危険」との判断もあったという。

30度超えの中……

　避難者は今回、津波とともに、暑さとの戦いともなった。1.3mの津波を観測した同県久慈市では30日、約5000人に避難指示が出され、最大約600人が避難した。同日の最高気温は30度を超え、徒歩で避難所を目指した男性（90）が熱中症で倒れ、救急搬送された。

　同市防災危機管理課によると、暑さ対策として首元を冷やす「ネッククーラー」を各避難所に配布。不足はなかったとする一方で、担当者は「約半数の避難所にエアコンがない。持ち運べる小型クーラーなど追加の機材の導入を検討する必要がある」とした。

避難場所の体育館には暑さ対策で扇風機やクーラーが設置された＝30日午後、宮城県石巻市（鴨川一也撮影）

偽情報拡散も

　過去の災害時と同様、SNS上ではデマも確認された。災害情報の共有の場として、SNSは存在感を増す一方、偽情報は場合によって命取りにもなりかねない。

　Xでは、海岸に巨大な波が押し寄せる様子を映したような虚偽の内容の動画が投稿された。「カムチャツカ地域の一部で4mの津波が観測された」というメッセージが添えられ、数十万回閲覧された。過去にも同様の動画が出回っており、転用されたとみられる。同種の情報に触れた釧路市の会社員の女性（22）は「『意外とやばいかも』と思ってしまった」とする。

　防災情報に詳しい静岡大の牛山素行教授（災害情報学）は今回の津波避難について「注意報・警報に基づき、世間はおおむね即座に反応した」と評価。その上で、今後も遠地津波のリスクは続くが「特別な対策よりも、備品をそろえたり、高台へ避難したりするなど、基本動作の徹底が大事になる」とした。（海野慎介、山本玲、濵佳音）