このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英ブリストル大学などに所属する研究者らが発表した論文「Fossilized melanosomes reveal colour patterning of a sauropod dinosaur Open Access」は、電子顕微鏡で調べた竜脚類恐竜の皮膚の化石には、動物の鮮やかな色を作り出すメラノソームと呼ばれる構造が示唆された研究報告だ。
「ディプロドクス」をはじめとする竜脚類恐竜は、長い首と尾を持つ巨大な草食恐竜として知られる。しかし、これらの恐竜が生きていたときにどのような体色をしていたのかは、これまで全く分かっていなかった。羽毛恐竜については色彩の復元が進んでいるものの、うろこに覆われた竜脚類については手掛かりすらなかった。
研究チームは、米モンタナ州の約1億5000万年前のモリソン累層から産出した若いディプロドクスの皮膚化石を分析した。
研究チームがうろこの化石を走査型電子顕微鏡で観察したところ、微小な構造物の痕跡が多数確認され、メラノソームと解釈された。メラノソームとはメラニン色素を生成する細胞小器官で、その形状やサイズから動物の体色を推定する手掛かりとなる。
うろこの断面を調べると、2つの層に分かれていることが分かった。上層はアルミニウムとケイ素を含む粘土鉱物で構成されており、もともとあったケラチン層が化石化の過程で置き換わったものと考えられる。下層は炭素に富み、ここに多くのメラノソームの痕跡が残されていた。
2種類の異なる形態のメラノソームが見つかった点が特徴的だ。1つは楕円形で、長さ約230〜480nm、幅約160〜250nmほど。このサイズは現生鳥類の茶色い羽毛に見られるメラノソームと近い。もう1つは円盤状で、直径約350nm。この平たい形態は、鳥類の虹色に輝く羽毛に含まれる板状メラノソームを連想させるが、サイズはそれより小さい。
さらに、これらのメラノソームはうろこ全体に均一に分布するのではなく、小さなグループを形成してまばらに点在していた。研究チームは、この配置からディプロドクスのうろこにはまだら模様があった可能性を指摘している。
ただし、体色の断定には慎重さが必要だ。鳥類ではメラノソームのサイズと色の間に明確な相関があるが、非鳥類の爬虫類ではその関係が単純ではない。また、爬虫類の皮膚の色彩には真皮の色素細胞も大きく関与するため、表皮のメラノソームだけから完全な体色を復元することには限界がある。
それでも、2種類の形態のメラノソームが存在したという発見は、竜脚類の表皮が従来考えられていたよりも複雑な色彩生成能力を持っていた可能性を示唆する。
Source and Image Credits: Tess Gallagher, Dan Folkes, Michael Pittman, Tom G. Kaye, Glen W. Storrs, Jason Schein; Fossilized melanosomes reveal colour patterning of a sauropod dinosaur. R Soc Open Sci. 1 December 2025; 12(12): 251232. https://doi.org/10.1098/rsos.251232
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