Twitterが使えない中国からフォローされたでござる、の巻:山谷剛史の「アジアン・アイティー」
多くの中国人からほとばしる本能が“ある”日本人女優のTwitterを盛り上げている。あれ? 中国ってTwitter使えるんだっけ?
“Twitterなどない”ことにしたい当局
Twitterを鋭意制限中の中国ネット界に衝撃が走った。とある日本人女優が最近Twitterを始めたところ、なぜか中国本土からのフォロアーが激増したのだ。「グレート・ファイアウォール」(GFW、中国語名は“金盾”)に遮断されて、中国ではTwitterを利用するどころかサイトへのアクセスすらできないが、日本人女優の書き込みを見るために数万人の中国人が危険な壁を乗り越えたらしい。
TwitterにしろYouTubeにしろ、そして、中国で数ある“アクセスNG”認定サイトにしろ、基本的にニュースで報じることは制限をしていないので、今回のような事態は、「海外サイトの新サービス関連記事」という技術的な話題として紹介されることが多い(そういう意味で、Google中国撤退の報道が規制されたのは極めて異例だった)。
「日本人女優のTwitterアカウントに中国人が殺到」というトピックも、中国人が“壁”を勝手に乗り越えてTwitterに殺到したという政治的な問題と当局が認識しなかったのか、新浪網やQQなどの民間系ポータルサイトだけでなく、人民網や中国新聞網といった大手ニュース系ポータルサイトまで幅広く報道した。
とはいえ、中国の“ごく普通な”インターネットユーザーは、“壁”を無理してよじ登ろうとはしない。むしろ、壁の向こうに中国から利用できないWebページが無数にあることを知るユーザーすら極めて少ないのだ。
この状況を「反政府的な危険を犯してまで壁を登る必要はない」と説明するユーザーもいれば、「国内のWebページだけで十分」「海外のWebページには興味なし」という模範的なユーザーもいる。「インターネットは娯楽に過ぎない。動画が見れてオンラインゲームができれば満足」という意見も多数だ。そういう事情もあってか、海外の大学で留学生が集まる機会に、中国人留学生だけがYouTubeやTwitter、Facebookの存在を知らなかったという話もよく聞く。
存在を知らない中国人に“中国でTwitterが使えない問題”について意見を聞いても「なにそれ?」という反応が大多数なのは当然のことだ。しかし、“壁を超える”ユーザーに意見を求めると、当局がTwitterを危険視して使えなくすることに反発し、それに抵抗するためだけに壁を乗り越えているという意見が多数聞こえてくる。
ネットワークサービスが中国で最も進んでいる北京では、Twitterユーザーが集うオフ会も開催されている。2010年1月に開催されたオフ会では35名のTwitterユーザーが集まったという。主催者は自分のブログで「Twitterがアクセス禁止になることでユーザー同士の関係がより密になっている」と述べる。この主催者は、中国社会科学院が書いた『社会藍皮書』にある「Twitterはユーザーを激しく扇動する可能性がある。西洋のネットユーザーがTwitterで日常を淡々と語るのとは異なり、中国のネットユーザーは時局問題に非常に強い関心を持っている。Twitterで彼らがつながれば、そこから集団が形成され、事件が発生したときに現場の状況が集団を介して直接多くの人に伝わるなど、非常に強い力を持ちかねない」という文章に対して、「Twitterは政治の道具ではない」とTwitterに対する当局のイメージ誘導を批判している。
「民に対策あり」の国でtwiiterを使うには?
ごく普通の中国人がTwitterを使うために当局が設置した“越えられない壁”を乗り越えるのは容易でない。「Twitterの利用方法」などのそれらしい単語で検索しても方法を解説したWebページはまったくヒットしない。多くのユーザーに利用されている質問掲示板の1つである「百度知道」で検索しても「ヒット数なし」と、ある意味“あからさまな”結果が表示される。ちなみに百度知道では「YouTube」を検索しても、検索件数はゼロになる。
とはいえ、「民に対策あり」の言葉通り、「翻墻」(壁越え)という単語で検索してみると、隠語を多用したヒントが書かれたブログや質問掲示板がヒットする。以前は「プロキシを使え」とか「専用ツールの“自由門”か“無界”を使え」という回答が主流だったが、最近では、VPNサービスの利用を提案する回答が多い。VPNを使えば中国の外にあるサーバからアクセスしてTwitterが使えるようになる。ただ、VPNを利用するには中国の有料サービスを契約する必要がある。壁越えもカネ次第らしい。また、最近では中国からアクセスできないTwitterのオフィシャルサイトではなく、Twitterクライアントソフトの「Dabr」を利用して中国からTwitterを利用する方法を説明する回答も増えている。
ただ、以上の方法は中国語のWebページを利用するので、外国人が同じ方法でTwitterを利用するのは難しい。観光やビジネスで一時的に滞在するケースも含めると中国にいる外国人は膨大な数になるはずだ。ネットワーク事情が恵まれた国から来た外国人には、YouTubeやTwitter、Facebookなどにアクセスできないのは不便に感じるだろう。
しかし、そういうユーザーも、「Twitter Facebook YouTube GFW China」と英語で検索してみると、これらのサービスを利用できる無料のソフトウェアが見つかったりする。これを使えばTwitterが簡単に使えるようになる。“当局の壁”とは関係なく、西洋人に「twiiterどうしている?」と聞いてみたら、筆者が会った全員がその方法を知っていたのも紛れもない事実だったりするのだ。
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