連載

次世代CPU「Haswell」は今度こそ“パソコンの形”を変えるか本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

2013年に投入されるインテルの次世代CPU「Haswell」は、パーソナルコンピュータを設計する自由度の向上が期待できる。これにより、PCの形はどのように変わるのだろうか。

前のページへ |       

Haswellが新しい分野として狙う「Ultrabook Convertible」

 異論はあるかもしれないが、インテルはUltrabookのムーブメントを、PCにCD-ROMドライブを搭載した1995年のマルチメディア化、省電力化によるバッテリー持続時間の改善と無線LANでPCの利用フィールドを広げた2003年のCentrinoに続く、大きな変節点だと主張している。

 もっとも、消費者の立場からすると、UltrabookがPCの大きな変節点だと感じることは難しいかもしれない。過去のUltrabookは、いずれも薄く、バッテリーの持ちもよく、起動速度も速い、といった特徴を備えていたものの、従来のPCの延長線上にあり、また他社が示したコンセプト(代表例はアップルのMacBook Air)に酷似していたからだ。

 しかし、インテルはUltrabookのコンセプトに基づいて、新たなPCプラットフォームを築こうとしてきた。そのための新設計プロセッサがHaswellである。本来、インテルが“Ultrabook”としてイントロデュースしたかったのはHaswell世代のPCと言ってしまってもいいかもしれない。インテル自身はHaswell世代のPCプラットフォームについて「PCの再発明(再発見)」を促すものだと考えている。

advertisement
インテルが考えるPCの変節点(画面=左)。マルチメディア化、モビリティに続く大きな変化がUltrabookだとする。2011年の第2世代Core(Sandy Bridge)、2012年の第3世代Core(Ivy Bridge)を経て、2013年の第4世代Core(Haswell)に至り、「PCの再発明(再発見)」を促す(画面=右)

 特に新しい分野として狙っているのが、「Ultrabook Convertible」と呼ばれるUltrabookとタブレットの両対応フォームファクタだ。このカテゴリーは、例えばソニーの「VAIO Duo 11」東芝の「Satellite U920t」(日本ではDynabook R800シリーズとして発表予定)、Samsungの「ATIV Smart PC」など、すでにIvy Bridge世代のシステムとWindows 8の組み合わせで製品が発表されている。

 これがHaswell世代になると、低消費電力かつフォームファクタの自由度向上により、より進んだものになるということだ。もともと、こうしたコンバーチブルPCはメカ設計面での制約が厳しく、ノートPC型としても、タブレット型としても、薄さ、軽さ、バッテリー持続時間といったスペックで不利になっていた。

 しかし、Haswellで従来の制約が緩和されれば、Windows 8のタッチパネル操作、全画面アプリといった新たなトレンドとともに、新しいコンピューティングスタイルの提案が可能だと、インテルは考えている。

Ultrabookとタブレットの両対応フォームファクタとなる「Ultrabook Convertible」(画面=左)。Haswell世代では、タッチ操作とキーボード入力に対応したより柔軟なデザインのPCを設計することが可能になる(画面=右)

 その根拠となっているのが、より薄く、軽く作るため、インテルが部品メーカーなどとUltrabook向けコンポーネントで協力してきた成果だ。

 薄型液晶ディスプレイ、薄型タッチパネルユニット(あるいはタッチパネルユニットと液晶ディスプレイの一体化)、操作性のよい薄型キーボード、タッチパッド、ストレージ、バッテリーの薄型化などがそれにあたる。

 ボディの薄型化は、画面サイズの拡大とキーボードなどに使う面積を確保する上でも、モバイルコンピュータのトレンドとしては合理的なものだが、同時に剛性を確保することが難しい。もちろん、重量を犠牲にすれば強化は可能だが、インテルの供与する技術を用いれば、プラスチック筐体でも18ミリ厚で高剛性の筐体設計が可能だとしている。

 日本メーカーはあまり関係ないだろうが、インテルにメカ設計を依存しているアジア系のメーカーから、これまで以上に低価格な薄型ノートPCが多数投入されるようになるだろう。

Ultrabookを推進するため、インテルは部品メーカーと協力し、PCの各部を薄型化することに努めている(画面=左)。新しい強化プラスチックによる筐体では、Ultrabookの要件である18ミリ厚のボディ(14型未満の場合)で、高剛性の筐体設計が可能になる(画面=右)

 こうしたフォームファクタの自由度向上には、TDPの引き下げが重要な役割を持つ。前述の通り、Haswellでは従来を大きく下回るTDP 10ワット以下の製品が投入できるようになるが、その背景には「Ultrabook Power Optimazer」がある。これは既存のUltrabookで使われている考え方で、熱設計の枠に応じてパフォーマンスと消費電力のバランスポイントを最適化するというものだ。

 Haswellではアイドル時の消費電力が下がるため、熱設計電力枠の設定範囲が広くなり、この考え方を活用して、より自由な設計が行えるようになる。

熱設計の枠に応じてパフォーマンスと消費電力のバランスポイントを最適化する「Ultrabook Power Optimazer」(画面=左)。Haswellではアイドル時の消費電力が下がり、熱設計電力枠の設定範囲が広がることで、より自由な開発を後押しする(画面=右)

 さらに、Windows 8と組み合わせることにより、常に電源をオンにしたままで、低消費電力の運用を行える“S0ix”というステートが追加される。これはWindows 8の新しい機能と連動するもので、待機時の割り込み処理による電力消費を抑えるものだ。ただし、Windows 8のオールウェイズオンサポートは、システムで使われているデバイスがそれぞれにインテリジェント性を持ち、外部からの入力に対して基本的なレスポンスを独自に返せるようにする、という仕組みが必要になる。

 この仕組みに対応したデバイスで、製品全体が構成されていなければならないのだが、いくつかのOEMに尋ねると、現状はHaswellを用いたプラットフォームでWindows 8のオールウェイズオンサポートを完璧にサポートするのは難しいとの声も挙がっている(もちろん、発売は1年先なので大丈夫なのかもしれないが)。

 OEMからは「理想は確かに待機時電力1/20の達成で、それが可能な条件をそろえればその数値になる。しかし、現実には難しいとしかいえない」との声が聞かれた。これから1年、ハードウェア開発の枠組みを提供しているインテルのリーダーシップが問われる部分だ。

 これらのさまざまなフォームファクタの変化と、Windows 8のタッチパネルサポートの充実、アプリケーションの増加に伴い、インテルはUltrabookコンセプトとタッチパネルの融合が進み、Ultrabook Convertibleの世界が花開くと考えている。

待機時の割り込み処理による電力消費を抑えるS0ixステートは、Windows 8との組み合わせで高い省電力効果が期待できる(画面=左)。Ultrabookとタブレットの融合が進み、Ultrabook Convertibleの世界が花開くと考えるインテル(画面=右)
前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.