「Google I/O 2013」が示すGoogleの原点回帰:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
ウワサの絶えない新型Nexusや次期Androidが発表されないまま幕を閉じた「Google I/O 2013」。エンドユーザーにとっては面白みに欠けたかもしれないが、これはGoogleが自らの立ち位置を見直したがゆえの変化ではないだろうか。
Googleは迷いを吹っ切ったのか
象徴的だったのは、航空券や各種入場券など、チケット販売業界への参入で論争が起きたことだ。すでに3年も前の話だが、今もってGoogleは同じ問題を抱えている。
消費者との幅広い接点を持つGoogleが、検索機能や提供する各種サービスとの連動で、適切なチケットをオファー。そのままダイレクトに販売するというのは、確かに魅力的なアプリケーションだ。消費者側はシンプルな操作で望みのチケットを素早く見つけることが可能になるだろうし、好きなアーティストのコンサート開催が決まったら、チケットの存在をパーソナルアシスタント機能の「Google Now」で教えてくれるかもしれない。
そこでGoogleはさまざまなオンラインチケット販売会社の買収を進めていた。ところが航空チケット検索・比較サービスで北米1位のITA Softwareを買収したところで、ITAのライバル企業からクレームが入った。オンライン広告を寡占しているGoogleが検索連動、端末連動で航空券の販売を直接行うようになれば、それまでITAのライバルだった企業は単純な努力だけでは太刀打ちできなくなる。
自社が寡占しているサービスをテコにして、独占状態を強化するとともに、新しい事業領域での独占を画策していると受け取られたわけだ。結局、この買収は2011年に認められたが、米司法省はITAのGoogleからの独立性に関して厳しい条件を付けた。
同様の軋轢(あつれき)はさまざまな部分で起きているが、根本的な問題はGoogleの基本的なビジネスモデルに関わることなので解決が難しい。Googleが検索連動型の広告ビジネスで支配的な位置にありながら、本業であるインターネットサービスでなかなかその強みを生かし切れていなかったのは、独占的なシェアを誇るがゆえに既存業界との軋轢を避けられなかったからだろう。
昨年のGoogle I/Oで全方位的にさまざまなデバイスやサービスを大量に発表したのも、Androidがシェアの面でアップルを攻め立て、多様なデバイス分野に組み込まれていくモメンタムの大きさを前面に押し出し、そちらに目を逸らしてほしかったのではないだろうか。
とはいえ、球体クラウドメディアプレーヤーの「Nexus Q」があっという間に消えてしまったことを引き合いに出すわけではないが、Androidに集まる投資、次々に登場する新デバイスだけに勢いを任せることはできない。差詰め(本来は本業と言いがたい)Android開発者向けカンファレンスと化していたGoogle I/Oが、今年は本業のWebサービス強化に向かったことは、Googleが迷いを吹っ切ったことを示している。Andorid事業の責任者だったアンディ・ルービン氏の退任も象徴的だ。
さらに創業者でCEOのラリー・ペイジ氏が基調講演の終わりに登場し、参加者との対話を重視した講演と質疑応答を丁寧に行うなど、これまでのGoogle I/Oの雰囲気とは少し違った雰囲気を醸し出していたことも、新しいGoogleを象徴しているのかもしれない。
プラットフォーマーとしての地位を改めて盤石にするGoogle
ではインターネットサービス事業や開発環境の強化、開発者との対話姿勢などは、Googleと開発者との関係だけでなく、パートナーとなり得る他社との協業につながっていくのだろうか?
今回のGoogle I/Oの様子だけでは、そこまでは見えないが、パートナー企業を必要としないGoogleの基本的な立ち位置は変わっていないようだ。しかし、一方で他事業領域との軋轢を避けながら、プラットフォーマーとしての地位を盤石に強化していくという方向に活路を見いだそうとしているように感じた。
航空券事業では事業領域拡大のために関連事業者を買収し、自社システムとの連動性を高めることで利便性を追求するという方向でクレームが入ったが、他の領域でしのぎを削る事業者たちにプラットフォームとして、Googleのシステムとの連動性を高める出入口やツールを提供する形であれば、特定分野の競争を阻害することはない。
そもそも、Googleが悪意を持って特定の業界で競争を阻害する買収戦略を実施していたとする一方的な批判に確たる根拠があるわけではない。しかし、自らの立ち位置を明確にしようというニュアンス、意図が感じられた。
Webコンポーネント技術やブラウザのレンダリングエンジンへの投資、モバイルアプリケーションのバックエンドホスティングサービスなど、エンドユーザーから見ると地味なところでいくつかの新発表を続けたところを見ると、プラットフォーマーとしての意識に変化が訪れたのかもしれない。
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