善意が裏目に出た「LINEの10分無料通話」 震災時の安否確認はどうすべきか:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
熊本県で4月14日夜に発生した最大震度7の地震を受け、携帯電話と固定電話あてに電話をかけられる「LINE Out」が1回あたり10分まで無料となり、他社もこの動きに追従した。しかし、回線の混雑を助長するこうした施策は「善意が裏目に出た」と言えるものだ。
サービス提供各社は災害時にどのように振る舞うべきか
では、LINEはどのような対応をすればよかったのだろうか。
LINEも誤りに気付いたようで、「本当に緊急時のみLINE Outをご利用ください」と案内している。被災地域内の局が混雑している場合、データ通信網の帯域に余裕がある状況ならば、被災地域外のゲートウェイを通じて発話できるため、例えば「救急車を呼べない……」といったときに役立つケースも想像できる。
つまり、無意味ではないのだが、そういった意図があるのならば、被災地から外に向けた通話のみを無料化するなどの工夫が必要だった。災害時に安否確認による輻輳が発生する理由は、ごく一部の被災地域に対し、全国から通話要求が集中することに他ならない。被災地外の利用者から被災地域へのLINE Outがなければ、今回の批判はなかっただろう。
あるいは、安否確認が目的なのであれば、Googleのパーソンファインダーのような仕組みを検討してみるべきではなかっただろうか。LINEは東日本大震災時における連絡網の混乱をみて、携帯電話の通信網を通じた通話とメッセージ交換の仕組みを提供したいと考えて生まれたという。本件についても、きっと次の災害時への教訓として生かしてくれるものと信じたい。
既に携帯電話各社は過去の反省を踏まえたうえで、専用の伝言サービスを提供している。声による安否連絡をしたい利用者は「171」へダイヤルするだけで、音声伝言を残すことが可能だ。このサービスは震度6弱以上の地震が発生した際、自動的に起動するようになっており、電話局内で通話が完結するため、回線交換負荷が発生しない。利用者の携帯電話番号とひも付けられているため、安否を気遣う親戚や知人は、相手の携帯電話番号を入れるだけで伝言の有無と内容の確認を行える。
次にスマートフォンでインターネットに接続できる状況ならば、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯電話事業3社が提供する災害用伝言板が便利だ。音声の171と同様、利用者の電話番号で文字による安否確認メッセージを登録、参照できる。また、気になる相手の電話番号を登録しておけば、メールや伝言の通知を受けられる。
NTTドコモの場合、スマートフォンでは「災害用キット」アプリから、ケータイではMENUボタン→あんしん、またはiメニュートップから利用できる。
KDDI(au)の場合、スマートフォンでは「au災害対策」アプリから、ケータイではEZボタン→トップメニューから利用できる。
ソフトバンクの場合、スマートフォンでは「災害用伝言板」アプリから、ケータイではYahoo!ケータイトップから利用できる。
PCやMVNOなどのユーザーは、NTT東日本/NTT西日本が提供している「災害用伝言板(web171)」で安否の登録と確認が行える。
これらに加えて、携帯電話事業3社は被災地内のWi-Fiサービスを統合。「00000JAPAN」というSSIDで、Wi-Fiのデータ通信サービスを無償解放している。
これらの情報は、災害時に発信されても、被災地では情報過多なうえ、混乱して把握しにくいことが多いだろう。利用者の多いLINEだけに、テキスト情報や簡単な画像などを交えながら、LINE利用者に対して上記のような情報を配信するという貢献方法もある。
地震翌日となり、楽天もLINEに追従して音声サービスの「Viber Out」を音声回線に接続するサービスを無償化し、その後に「安否確認は、まずは災害掲示板などをご利用ください」と案内している。
現時点では被災地の輻輳は起きていない。もし、LINEや楽天が各電話会社と相談したうえで、輻輳の問題がないことを確認してからサービスインしたのであれば、批判には当たらないかもしれない。
しかし、「災害時にどのように振る舞うべきか」は常にシンプルであるべきだと筆者は考える。通話サービスの利用を促すのではなく、過去に学んだうえで作られている「171」などの仕組みを尊重しつつ、その補完としてどのような価値を提供するかを考えることが望ましいと思う。
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