期待のARM版Windows 10に待った? Intelが特許問題をちらつかせる理由:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/2 ページ)
MicrosoftとQualcommが2017年第4四半期に「Snapdragon 835搭載のWindows 10デバイス」を投入すると予告した一方で、Intelは特許侵害の可能性を指摘している。蜜月関係にあったMicrosoftとIntelだが、本件で対立を深めることになるのだろうか。
ARM版Windows 10はIntelの特許を侵害しているのか
問題は、今回のARMプロセッサにおけるx86エミュレーションの責任がどこにあり、実際にその影響がどこまで及ぶかという点にある。
Microsoftが公開している資料によれば、AMR版Windows 10は、カーネルやドライバはARMネイティブで動作しており、ARMバイナリのアプリケーションを実行する場合、変換プロセスが介在する余地はない。
一方でx86バイナリのアプリケーションを実行する場合、「Windows on Windows(WoW)」の形で抽象化レイヤーが用意され、エミュレーションによるx86プロセスと既存のARMプロセスとの仲介が行われる。
このWoWは、通常のx86版Windowsにおいても、64bit版Windows上で32bit版プロセスを実行するのに用いられている手法だ(つまり「x32 on x64」)。AMR版Windows 10では、64bit ARM上で32bit x86のコードを実行していることになる。
ただ、過去のIntelとの特許紛争においては半導体メーカーが対象であり、x86互換プロセッサにしろ、TransmetaのCrusoeにしろ、プロセッサ上で直にx86コードを実行できることに問題があった。Transmetaのコードモーフィングソフトウェアによるエミュレーション技術はプロセッサ上で展開され、OSやアプリケーションはそれを意識せずにx86コードを実行できる点が重要だったのだ。
しかし今回、Snapdragon 835のケースでは、プロセッサそのものはARMバイナリしか実行せず、WoWの形でOSがソフトウェアとして別途x86バイナリ実行環境を用意することで対応している。
この場合、責任の所在はARM版Windowsを提供するMicrosoftにあるのだろうか。それとも、パートナーとしてプロセッサを供給するQualcomm、あるいはQualcommのプロセッサを搭載してARM版Windows 10をプリインストールしたPCを販売するメーカーにあるのだろうか。
少なくともMicrosoftとしては、OEMメーカーとの契約でWindowsのライセンスにあたって特許紛争から保護する必要がある。もしIntelが何らかのアクションを起こした場合には、動かざるを得ないだろう。
実際の製品が出てからの動向に注目
しかし現在のところ、MicrosoftとQualcommは静観する構えのようだ。
米ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏が両社にコメントを求めたところ、その回答はIntelとの件に関して何も触れておらず、具体的なアクションを起こす様子もない。
これは筆者の予想だが、Intelも現時点で何らかの具体的なアクションを起こす可能性は低く、もし動くとしても実際にARM版Windows 10搭載製品が登場した2017年第4四半期以降のタイミングになるだろう。
また、いきなり訴訟を起こすよりも、ARM版Windows 10の提供を表明しているASUS、HP、LenovoといったOEMメーカー側にアプローチする可能性が高い。これらはIntel製プロセッサを搭載したPCを販売する同社の顧客であり、PC市場のシェア上位を占めるトップベンダーだ。
まずは契約条件での優遇案など、訴訟とは違う表立っての行動を伴わない水面下での戦いが行われるのではないだろうか。
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