「ThinkPad」が生まれて30年 次の30年を占う2022年モデルはどんな感じ?(4/4 ページ)
1992年、当時のIBMが「ThinkPad 700C」を発売した。それから30年たった現在も、ThinkPadは「日本生まれの世界ブランド」として健在だ。次の30年の進化を見据えて誕生したという2022年のThinkPadはどのような特徴を持っているのだろうか。ThinkPadの開発を担うレノボ・ジャパンの大和研究所が説明した。
次の30年を見据えた「ThinkPad Zシリーズ」
2022年モデルのThinkPadでは、新たに登場した「ThinkPad Zシリーズ」も注目を集めている。
ThinkPad Zシリーズは、2005年に“新生”ThinkPadの第1弾として生まれた(参考記事)。今までのThinkPadには無かったワイドディスプレイを搭載したことが特徴だったが、他のシリーズもワイドディスプレイに移行したこともあり、2006年に登場した「ThinkPad Z61シリーズ」をもって終息してしまった。
大和研究所で第一先進ノートブック開発を担当する渡邉大輔氏(シニアマネージャー)によると、約16年の時を経て“復活”したThinkPad Zシリーズは「(30周年を迎えた)ThinkPadの次の30年を見据えた新シリーズ」だという。
いわゆる「Z世代」をメインのターゲットに据え、今までThinkPadに触れたことのない人を強く意識した一方で、今までのThinkPadが培ってきた核心的な価値を盛り込んだ意欲作といえる。ボディーフレームはアルミニウム素材で、その75%はリサイクル素材となっている。パッケージもリサイクル可能な素材を採用しており、まさしくターゲットユーザーに“ドンピシャ”である。
デザイン面では、意匠設計(デザイン)チームが長年追い求めていた「シンプルかつ正直な形状」を可能な限り忠実に実現したという。従来のThinkPadのデザインから少し距離を置いて、面を最大限に活用して機能を無駄なく実装する一方で、直線を多用しつつ“実際に”薄いボディーとなるように設計したそうだ。特に13型「ThinkPad Z13 Gen 1」は、その考え方を色濃く反映している。
「ThinkPadの常識は、他のノートPCの非常識」ともいえるのが、ポインティングデバイスである。
ごく初期の一部モデルを除いて、ThinkPadには「TrackPoint(トラックポイント)」というスティック型のポインティングデバイスが搭載されている。他社でも主に海外でスティック型ポインティングデバイスを搭載するノートPCを用意しているが、ここまで広く展開しているのはThinkPadだけである。
しかし“ThinkPadだけ”ということは、多くのユーザーにとってTrackPointはなじみが薄い。実際、ThinkPadを見て「キーボードの赤い点、これは何?」と聞いてくる人も少なくない。そもそもポインティングデバイスとして認知されていないのである。
ではノートPCユーザーの多くは何を使うのか。タッチパッドだ。ThinkPadでも、IBM時代の2003年に登場した「ThinkPad T30」からTrackPointに併設する形でタッチパッドが搭載されるようになった(当時はこの併載を「UltraNav(ウルトラナビ)」と呼んでいた)。当時は「ThinkPadがThinkPadでなくなった!」と大騒ぎするユーザーがいたが、タッチパッドとTrackPointの併載は定着し、現在に至っている。
話が横道にそれそうになったが、先述の通り、新しいThinkPad ZシリーズはThinkPadになじみのないユーザーを強く意識している。そのため、まずはタッチパッドの使い勝手の向上に注力している。具体的な改善項目は以下の通りだ。
- タッチパッドの横幅を120mmまで拡大
- パッド部分に指滑りの良いガラス素材を採用
- 独立したTrackPointボタンを廃止し、普段はタッチパッドの一部として運用可能に
このタッチパッドは感圧式となっており、クリック感は感触フィードバックで再現される。実際に操作をしてみると、最初は「あれ?」と違和感を覚えるが、慣れてくると普通に操作できるようになる。
新しいThinkPad Zシリーズのタッチパッドはガラス素材でできており、TrackPoint用のボタンが廃止されている。またクリックしても押し込めない感圧式となっており、感触フィードバック機構が機械的に「押し込み感」を作り出すようになっている
「伝統のTrackPointを軽視してるのか!」と思ってしまう人もいるかもしれないが、TrackPointにも改善を加え、“新しい意味”を持たせている。
専用ボタンが無い点については、パッドの上部をクリック/スクロールボタンとして代用可能だ。こう聞くと、クリックボタンを全廃した2014年モデルを思い出してしまうが、ユーザーの“使い方”を徹底的に分析し、違和感を極小化するチューニングを施したという。過去のように、違和感をいつまでも拭えないということはなさそうである。
TrackPointの“新しい意味”を検討する際には、Z世代に近い開発メンバーに機能提案をしてもらい、それをもとに検討を進めた結果、Web(ビデオ)会議の利用時に便利な「Communication Quick Menu」が搭載されることになった。
このメニューを入り口として、TrackPointの便利さに気付いてもらえたらと渡邉氏は語る。
TrackPointを使ってもらうべく、想定ユーザーに近い年代の開発メンバーからTrackPointの新機能を募った結果(一部)。「フリック入力オンスクリーンキーボード」はスマホに慣れ親しんだ世代ならではといえる。「押しっぱなしで仮想環境入れ替え」は、完全な開発者目線である
ThinkPadでは「ThinkShutter」という物理的なWebカメラシャッターが搭載されてきたが、新しいZシリーズではThinkPadとしては初めて「電子式プライバシーシャッター」を搭載した。これにより、見た目のシンプル化を果たしている。
ただ、電子式プライバシーシャッターはカメラが“ふさがれない”ので、プライバシー面で不安を覚える人がいることも事実である。そこで大和研究所では、ISPが電源を切った後、ISP自身がダミーの映像を出力するという形でセキュリティを担保している。
新しいThinkPad Zシリーズは、ThinkPadとしては初めてAMDプロセッサに最適化された設計を取っている。そのこともあり、特に放熱設計には力を入れたという。
ThinkPad Z13 Gen 1では、同モデル専用のAPU「Ryzen 7 PRO 6860Z」を搭載できる。これは「Ryzen PRO 6000シリーズ」のUプロセッサの最上位「Ryzen 7 PRO 6850U」(2.7GHz~4.7GHz、8コア16スレッド、20MBキャッシュ)のパワーアップモデルで、少しだけ最大クロックが引き上げられているという(詳細は公開されていない)。放熱機構には液体を封入した「ベイパーチャンバー」を採用しており、低負荷時にはファンをオフにしてファンレスで稼働できるという。
一方、Ryzen PRO 6000シリーズのHプロセッサを備える16型の「ThinkPad Z16 Gen 1」には、クリエイターの利用を想定して「Radeon RX 6500M」を搭載する構成も用意されている。Radeon RX 6500M付きの構成は、CPUとGPUが連携して放熱性能を最適化する「AMD Smartshift Technology」に対応している。
Z世代を強く意識したThinkPad Zシリーズは、ThinkPadの革新性を強めに打ち出した面もある。ThinkPadユーザーの増加につながるかどうか、特に注目したい。
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