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インテルの小さくて大きな野望元麻布春男のWatchTower

前回に続き、最近インテルが力を入れている携帯デバイス分野の動きを整理する。

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インテルの大いなる野望

 このところインテルが力を入れている分野の1つが、低消費電力型のIAプロセッサ(LPIA)だ。既存のインテル製CPUで最も消費電力が低いのは、超低電圧版のCore 2 Duoで、その熱設計電力(TDP)は10ワットというところだが、LPIAが狙うのはその一桁下の0.6〜2ワット級だ。ここまで省電力にできれば、大型のヒートシンク、大容量のバッテリーは必ずしも必要ではなくなる。それにより機器は小型かつ軽量になり、携帯性が増す。それが新しい大きな市場をインテルにもたらす。

 LPIAにかけるインテルの思いを代弁すれば、おおよそこんなところだろうか。インテルはどうやら本気でこの市場に取り組もうとしている。このセグメントの製品を扱うUltra Mobility事業部をMobility事業部内に設立した。2008年はいよいよ最新の45ナノメートルプロセスルールによる本格的な新製品、Silverthorneプロセッサ(開発コード名)とそのプラットフォームであるMenlowが投入される。つい先日も、このSilverthorneの製品名が「Intel ATOMプロセッサ」になること、インテル製のチップセット(開発コード名:Poulsbo)や無線モジュールと組み合わせたプラットフォームのブランドが「Intel Centrino Atomプロセッサテクノロジー」になることが発表されたばかりだ。

Menlowプラットフォームの主要コンポーネントである、SilverthorneプロセッサとPoulsboチップセット(写真=左)。Centrino AtomとAtomの関係は、CentrinoとPentium Mの関係だ(写真=右)

MIDにNetbook、そしてNettopを事業の柱に

Silverthorneの派生型にはさまざまな用途が想定されている

 2008年第2四半期に提供されるMenlowがターゲットにするのは、インテルがMID(Mobile Internet Device)と呼ぶ小型の携帯端末だ。携帯電話以上、PC未満の製品で、サブノートPCより小さな4.5〜6インチの液晶ディスプレイを備えたインターネット・アプライアンスである。インテルではOSとして主にLinuxを考えているようだ。その大きな理由は、OSのサイズとライセンス料の問題、MIDが基本的にアプライアンスを目指しているためだと思われるが、2007年の6月で基本的にWindows XPのライセンス提供が打ち切られることも影響しているだろう。

 アプライアンス志向のMenlowに対し、ローエンドPC向けのLPIAとして提供されるのがDiamondville(開発コード名)だ。Diamondvilleがターゲットとするのは、低価格のノートPCとデスクトップPCで、前者をNetbook、後者をNettopとインテルは呼んでいる。いずれも、インターネット(メールとWebブラウズ)ができれば良い、という人たちに向けたシステムで、先進国の2台目需要(および教育需要)、途上国の1台目需要を狙う。

 はっきりと言えば、Eee PCの後継になりそうなのがこのNetbookである。すでに25を越えるOEMが2008年半ばの製品提供を目指してNetbookに取り組んでいるという。先頃インテルは、潜在的な競合になりうるEee PC/Netbookから手を引くことを求められOLPCから脱退したが、これだけ顧客がついていては、投げ出すわけにはいかなかっただろう(子供たちにどんなPCを与えるべきか、という理想論から入るOLPCと、教育目的であってもエコシステムとして成立しなければ永続的な支援にはならないと考える現実主義のインテルでは、しょせんうまくいくハズがなかったとも言えるが)。

インターネット セントリックに使われるPCがNetbookとNettop(写真=左)。MID、Netbook、ノートPCの違いを示したスライド(写真=中央)。Diamondvilleのパッケージは、通常のノートPC用(ここで表示されているのはCeleron)に比べれば小さいが、Silverthorneよりはだいぶ大きくなる(写真=右)

 現時点でDiamondvilleについては、Silverthorneより大型の(従来のPC向けCPUに近い)パッケージが使われることしか明らかにされていない。チップセットもPoulsboではない可能性もある。ここではOSとしてWindowsが有力視されるが、NANDフラッシュのストレージと組み合わせることを考えると、Windows Vistaが必要とするストレージ容量が気になるところだ。

 このほかSilverthorne世代のCPUとして、Sodavilleという製品も提供される見込みだ。SilverthorneコアにグラフィックスやA/Vコーデックのデコーダなど、そのほかの機能を組み合わせた家電向けSOC製品のようだが、登場するのは2009年になる。いずれにしても、インテルはSilverthorneのようなLPIAコアを、第2のIAコアと位置づけて、事業の柱に育てていこうとしている。

そしてCentrino Atom/Atomの今後は?

 それを裏付けるように、Silverthorne/Menlowの後のロードマップも公表されている。2009年に登場するMoorestownプラットフォームは、45ナノプロセスによるCPUであるLincroftに、Langwellチップセットを組み合わせる(いずれも開発コード名)。LincroftはLPIAコアにグラフィックス機能やメモリコントローラを組み合わせたもので、構成としてはメインストリーム向けのNehalemに類似している。と同時に、「将来のCPU製品のモジュラリティ」(Future Product Modularity)と題されたスライドに書かれているSystem On A Chipとほぼ同じであり、この図が極めて近い将来の具体的な製品プランに基づいたものであることをうかがわせる。

 Langwellで興味深いのはストレージのインタフェースが、ATAやSATAといった汎用のものではなく、わざわざSolid State Disk Controllerだけとされていることだ。おそらく、NANDフラッシュメモリを直結、あるいはそれに近い形で接続可能なチップになるのだろう。MenlowのチップセットであるPoulsboは、写真や図を見る限り、かなり大型であるとの印象を受けたが、逆にLangwellはかなり小さくなっている。おそらくLangwellでは、40番台のチップセット(Eaglelake)と同じ、65ナノプロセスへのシュリンクが行われるのだろう。

Moorestownプラットフォームには、WiFi/WiMAX/Bluetooth/GPSを統合した「EVANS PEAK」と呼ばれるモジュールが採用される(写真=左)。「将来のCPU製品のモジュラリティ」(Future Product Modularity)と題されたスライド(写真=中央)。ほぼ現実の製品をなぞっているようだ。MoorestownプラットフォームのチップセットであるLangwellは、かなり小型化され、基板全体がクレジットカードサイズに縮小する(写真=右)

 こうした改良により、MoorestownはMenlowに比べて40%の性能向上と、10分の1以下のアイドル時消費電力を目指す。平均消費電力でも4分の1になる見込みだ。パッケージサイズも8分の1へと小型化され、携帯電話機(スマートフォン)に入るようになる。インテルのInvestor Meetingで担当事業部長であるアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)副社長が示したスライドには、そのままiPhoneのような絵が描かれているのが興味深い。

 現在、組み込み用CPU市場はARMアーキテクチャが圧倒的な主流となっている。PCとのソフトウェア互換性と最先端プロセス技術を武器に、インテルがどれくらい市場シェアを得ることができるのか、注目されるところだ。

Menlowに対するMoorestownの性能やパッケージサイズ、消費電力の比較(写真=左)。Moorestownで、ついにx86アーキテクチャがケータイに入る(写真=右)

Inveter Meetingでチャンドラシーカ副社長が示したスライド(写真=左)。右端に見える電話機はどう見てもiPhoneだ。同じスライドがショーン・マロニー副社長のプレゼンテーションでは、なぜかWindows Mobileベースのスマートフォンに変わっている(写真=右)

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