「iPad」はネットとコンピュータを再発明する:iPad Wi-Fi+3G版で知った“違い”(3/3 ページ)
日本市場での「iPad」発売日、5月28日がいよいよ2日後に迫ってきた。一足早く日本向けのiPad Wi-Fi+3G版に触れる機会を得た筆者は、iPadがAppleの“4番目の再発明”になり得ると感じた。
エンターテインメント市場を変える、iPadのポテンシャル
iPadはカジュアルな新しいインターネット端末であると同時に、強力なデジタルコンテンツプレーヤーでもある。9.7インチのIPSディスプレイとマルチタッチ対応タッチパネルの組み合わせは、さまざまなメディアコンテンツの利用に適している。iPad向けコンテンツビジネスは、いま最もホットな話題の1つである。
その中でも特に注目されているのが電子書籍分野だろう。iPadはAmazonの「Kindle」のような電子書籍端末ではないが、Appleが、北米でのiPad発表時に新サービスの1つとして、電子書籍と電子書籍配信サービス「iBook Store」を掲げたことで、iPad向けの電子書籍ビジネスは日本でも注目されている。例えば、講談社は20日、作家・京極夏彦氏の新刊をiPad向けに販売すると発表。主婦の友社や双葉社など複数の出版社が、iPad向け電子書籍ビジネス参入を表明している。
iPadはiPhoneと比べて画面が大きく見やすいため、確かに電子書籍や電子コミックとの相性はよい。またモノクロ表示しかできないKindleと違い、iPadはカラーで写真や動画をふんだんに使った表現が可能なため、電子雑誌やフリーペーパー、通販カタログなどのiPad対応は着実に進みそうだ。
しかし、誤解を恐れずにいえば、電子書籍はiPadの可能性のほんの一部に過ぎない。iPadを使うと、それがよく分かる。
iPadはアプリやWebサービスによって多彩なメディアコンテンツを扱うことが可能であり、それらを高いクオリティと快適な速度で動かす基本性能の高さを持っている。さらにコンテンツを安全に配信し、手軽に購入・決済できるiTunes Storeの仕組みもある。AppleはiPodで「音楽」を、iPhoneで「ケータイゲーム」のビジネスモデルを変えて市場を席巻したが、iPadでは電子書籍だけでなく、ゲームや映像のコンテンツ市場も大きく変えるポテンシャルがあるのだ。
とりわけ筆者が注目しているのが、ゲーム市場におけるiPadだ。今でもiPhoneが携帯ゲーム市場で注目されているが、iPhoneは限られた画面サイズの中でタッチパネルの操作をしなければならず、ゲームのジャンルや内容によっては“使いにくい”と感じるものもあった。しかしiPadは、画面サイズが大型化したことでタッチパネル操作でも無理なくゲームを楽しめる。さらにA4プロセッサによる処理能力や描画能力は、据え置き型の家庭用ゲーム機にも迫る高さだ。これまで据え置き型の家庭用ゲーム機、特にリビングルームにおけるゲーム機の市場は、任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)、マイクロソフトの3社が支配していたが、iPadは「据え置き型ゲーム機並みのクオリティで、持ち運べる端末」として、携帯ゲーム機と据え置き型ゲーム機の中間に新しい市場を作ることができそうだ。
一方、映像コンテンツプレーヤーとして見ても、iPadは大きなポテンシャルを持っている。720p(1280×720ピクセル)のハイビジョン映像が再生可能であり、北米のiTunes Storeでは、ハリウッド映画やテレビドラマの配信/レンタルのサービスが実施されている。しかし、日本ではAppleの映像配信サービスがミュージッククリップ程度しか用意されておらず、映像分野におけるiPadの実力が発揮できる環境にないのは残念なところだ。日本でもiPad向けに映画・TVなどの映像コンテンツ配信サービスが始まれば、iPadはインタラクティブでパーソナルな「21世紀の新たなTV」になり得ると感じている。
iPadのエンターテインメント機能はすこぶる高く、音楽・ゲーム・映像といったiPad向けコンテンツが充実すれば、家庭内における最強のエンターテインメントマシンになる可能性すらある。またネット利用を前提にし、リビングルームからモバイルまで利用環境を選ばないというiPadの特性は、今後のコンテンツビジネスとの方向性とも合致している。iPad向けのコンテンツ市場は今後の注目であり、ともすればエンターテインメント市場の構造を変える黒船にもなりそうだ。
iPadはネットとコンピュータを再発明する
「Appleは携帯電話を再発明する」――。
これは初代iPhoneの発表時に、AppleのCEOスティーブ・ジョブズ氏が語った言葉だ。これになぞらえるならば、iPadは、21世紀のライフスタイルにおいて「コンピューティングの在り方を変えて、人々とネットとの接し方を再発明する」力を秘めている。Appleは、Mac、iPod、iPhoneと、コンピューティングの世界を再発明してきたが、iPadはその4番目の再発明になり得る。
むろん、iPad単体で見れば、コンテンツやアプリ、対応サービスは拡大の途上にあるが、それでも実際に触れば、Appleの狙いとそこに秘められた革新性はすぐに分かる。まずはアップルストアの店頭などで「iPadを触ってみる」ことをお勧めする。
iPadの日本発売まで、あと2日。悩む時間もあと少しだ。
「Apple iPad Case」をApple Storeで購入する
3980円(本体除く)
関連記事
- iPadアクセサリーを試す――ケース紀行 第2回
日本での販売価格が明らかにされ、いよいよ発売が迫ってきた「iPad」。ボディを保護するケースにも、やはりリンゴマークが欲しくなる。 - iPadアクセサリーを試す――ケース紀行 第1回
iPadの国内発売は5月28日とまだ先だが、関連製品は一足先に続々とリリースされている。iPadを保護するケースをいくつか試してみた。 - eBook USER、オープンしました
KindleやiPadをはじめ、電子書籍に関連する“ホット”な情報を集めた「eBook USER」がスタートします。 - ソフトバンクBB、iPad向け保護シールやケースなど7アイテムを発売
SoftBank SELECTIONブランドのiPad向け周辺アイテムが、5月28日に発売される。液晶保護シールやレザーケース、ラバースタンドなど7種類をラインアップしている。 - iPadの予約受け付けでアップルストア銀座に100人超の列
アップルの直営店、アップルストア銀座で「iPad」の予約受け付けが開始された。発売は5月28日とまだ先だが、国内版を心待ちにしていたユーザーが長蛇の列を作った。 - 日本国内で販売されるiPadは“SIMロックあり”
5月10日から先行予約の受け付けが始まった「iPad」。日本国内では、Wi-Fi+3G版はSIMロックがかかった状態で販売される。 - ソフトバンクモバイル、「iPad」を5月28日に発売――専用プランも発表
日本ではソフトバンクモバイルから「iPad」が発売される。同社は5月10日に一部のソフトバンクショップでiPadの予約受け付けを開始する。あわせて、iPadの本体価格と専用の料金プランも発表した。 - iPadの販売台数が100万台を突破――iPhoneの約2.4倍早い28日間で
米Appleは、4月3日発売した「iPad」の販売台数が4月30日で100万台に到達したと発表。iPhoneの74日間を大きく上回るペースだ。 - レイ・アウト、iPad用シリコンジャケット/レザージャケットなどアクセサリ7種を発売
レイ・アウトは、iPad用の本体保護カバー計4タイプ、および保護フィルム2タイプを5月下旬より発売する。 - 「高級Netbook…だと…?」 iPadの活用法を考えてみる
iPadを使い始めて3週間ほどが経過し、いくつか気になる問題も出てきた。ここでは特に大きなポイントを2つ取り上げつつ、現状のiPadがどんなことに活用できるかも考えてみた。 - iPadと電子出版は“若者の読書離れ”を止められるか?
iPadリポート総集編の第2回では少し目先を変え、新しく出てきた電子書籍関連の話題を追っていく。iPadと電子出版の組み合わせはユーザーにとってどんな可能性を秘めているのだろうか。 - 「なんだ朝日新聞は読めないのか」――高齢者がiPadを使ったら?
iPadの特徴を挙げるなら、1つはその直感的な操作性だろう。そこで思いつくのが高齢者や子どもといったユーザー層の開拓だ。総集編前編では、ロードテストを兼ねて筆者の両親にiPadを試してもらった。 - Kindleの街でiPadに出会った
Amazon.comの本社がある米シアトルでもiPadは販売された。“アウェーの街”でApple Storeに人々は集うのか? ひょっとしてAmazon.comが何かを仕掛けるのか? - 好調「Kindle」の死角
電子書籍リーダーとして現在1人勝ち状態のKindle。nookの出荷が本格化し、 iPadの登場も控えて競争が激化する米国電子書籍事情を紹介する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.