うわさのサーバ向けARMプロセッサ「Qualcomm Centriq 2400」が正式ローンチ Intel Xeonと比較した実力は?:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(3/3 ページ)
Qualcommが投入したサーバ向けARM SoC「Centriq 2400」は、Intel Xeonの牙城を崩せるのか。米カリフォルニアで開催されたローンチイベントを現地からレポートする。
高密度実装を生かした高パフォーマンス環境で威力を発揮
サーバやデータセンターの世界でARMが過去数年で存在感を示せなかったのは、必要なパフォーマンスやメリットを提供できなかっただけでなく、それを支えるエコシステムパートナーの未熟さにあった。
従って、今回Centriq 2400がうまく立ち上がるかはパートナーに大きく依存している。Centriq 2400は最初のプレビューが行われた2016年末の時点で既に一部パートナーでの稼働が開始されており、テスト環境ではなく、実際のワークロードで1年近くにわたって運用が続けられてきたとQualcommは説明している。その代表格がMicrosoftだ。
例えば、Microsoftは過去数年にわたってFPGAを利用したデータセンター向け高性能システム「Project Catapult」の研究開発を続けており、それをベースに構築したディープラーニング高速化システム「Project BrainWave」を発表している。こうしたアーキテクチャ非依存型のソリューションはCentriq 2400を適用しやすい候補の1つだ。
一方でローンチイベントに登壇した米MicrosoftのAzure担当ディスティンギッシュトエンジニア(Distinguished Engineer)であるレーンデルト・バンドーン氏によれば、Azureデータセンターにおける「ストレージ」と「検索」で、Centriq 2400はその効果を発揮しているという。
ストレージはHDDからSSDまでさまざまなスループットの異なるI/Oがネットワークにぶら下がっているが、これらを集中管理してパフォーマンスの最適化を実現するのに効果を上げていると同氏は説明する。
また、検索では「インメモリ処理」と呼ばれる広大なメモリ空間上での各種高レスポンスな処理が有効で、Centriq 2400のアーキテクチャはこれにも有効だという。いずれにせよ、スループットや実装密度の面で有利だという分析だ。
米MicrosoftのAzure担当ディスティンギッシュトエンジニア(Distinguished Engineer)だるレーンデルト・バンドーン氏。同社内でのCentriq 2400の利用例を説明する
これは米Cloudflareのマシュー・プリンスCEOも同様の指摘を行っており、実装密度での優位性により、最終的に1つのCentriq SoCで2ソケットのXeon Silver(Skylake)システムを置き換え可能だという。
この他、ローンチイベントではOpen 19のプラットフォームにCentriq 2400を実装したシステムの紹介や、HPEがRed Hatと共同でCentriq 2400を使ったEnterprise Linuxのプロモーションが行われた。Windows ServerやLinuxだけでなく、各種言語やコンパイラ、インフラ技術、データベースなどがARMへの対応を進めており、環境は次第に整いつつある状況だ。
今回、需要や適正を判断してCentriq 2400という複数のSKUからなる単一の製品ラインでの市場投入となったが、チャンドラシーカ氏によれば「これはあくまでスタート地点」。今後需要を見て製品ラインや適用範囲をさらに拡大させていくとしている。
また、既に次のコアと製品ラインの開発もスタートしており、「Saphira Core」を搭載した「Qualcomm Firetail」という次期製品の存在が発表された。「Saphira」は「Eragon」というSF小説に登場する雌ドラゴンの名称だが、モバイルやIoT向けの「Snapdragon」から始まり、どうやらQualcommはプロセッサ製品に架空のドラゴンキャラクターの名称を与えるのが好きなようだ。
まずは、今後2020年にデータセンターのトレンド転換が起こるそのタイミングまで、最初のドラゴンであるCentriq 2400がどこまで活躍できるのかを注視していきたい。
関連記事
- PCだけでなくサーバもARM対応を進めるMicrosoft
2016年12月にARM版Windows 10の開発表明を行ったMicrosoftだが、今度はARM版のWindows Serverを開発していると発表し、注目を集めている。 - 驚異的なバッテリー駆動時間でPCを変革か SnapdragonがWindows 10にやって来る日
LTE内蔵のモバイルPCが増えつつある中、開発が進んでいるSnapdragon 835搭載Windows 10 PCでは、さらに「驚異的なバッテリー駆動時間」という付加価値を得られそうだ。 - Intelが脅威を感じる「ARM版Windows 10」の実力 そして「Always Connected PC」とは?
MicrosoftとQualcommが開発を進める「Windows 10 on Snapdragon」の実力、そしてIntelも関係するWindows 10の新モバイルPCコンセプト「Always Connected PC」とは何か? - 「リアルタイムAI」にGoogleと異なる手法で挑むMicrosoft 「BrainWave」プロジェクトとは?
AI時代では手元のデバイスより、クラウドの先にあるAIプラットフォームがますます重要になってくる。Googleと異なる手法でこれに取り組む、Microsoftの「BrainWave」プロジェクトとは何か。 - AIアシスタントでAmazonとMicrosoftが手を組む理由
Amazon.comの「Alexa」とMicrosoftの「Cortana」。2017年内に大手2社のAIアシスタントが相互に利用可能になる。この提携の背景には何があるのだろうか。 - Windows 10「Fall Creators Update」のビジネス向け新機能まとめ
「Fall Creators Update」という名称からはイメージしにくいが、この大型アップデートで法人向けのセキュリティ対策や管理機能が強化されている。直近のサポートポリシー変更とともに、まとめて紹介する。 - Windows 10 Mobileの終わりとMicrosoftの生きる道
既に数少ないWindows 10 Mobileユーザーが既に気付いていた、あるいは感づいていながらも認めたくなかったことが、ついに明るみに出た。 - 「Windows 10 S」は仕事マシンのOSとして無視できない存在に
当初は文教向けに機能制限したOSという位置付けだった「Windows 10 S」だが、ビジネス用途でかなり広がりを見せてきた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.