モバイルソリューションと内線サービスが成長を牽引――KDDI 山本泰英氏に聞く法人戦略(2/2 ページ)
「不況だからこそ、潜在ニーズはむしろ顕在化しやすい」――KDDIの法人部隊を率いる山本泰英氏は、法人向けモバイルソリューションやFMC分野は、「今だからこそ成長のチャンスが大きい」と見る。
山本氏 もちろん、安い音声サービスを求める顧客層はあります。しかし、「何でもかんでも980円でいいのか」「安ければいいのか」と疑問に思うところもあります。携帯電話ビジネスは設備産業ですので、しっかりと基地局を整備し、エリアを充実させていかなければなりません。やみくもに安い料金や音声定額サービスを訴求しても、その(インフラ整備)部分がきちんと行われていないと、お客様に対して不実となってしまいます。
―― 最近は法人音声市場での価格競争が激しくなっていますが、それは「持続的なインフラ整備・維持」ができる前提でなければならない、と。
山本氏 そのとおりです。我々は1xから始まり、Rev.0、Rev.Aと通信方式を進化させて、電波利用効率を向上してきました。さらに着実に基地局を増やして、エリアを広げるだけでなく、同じエリアの中でもつながりやすくなるよう「電波に厚みがでるように」インフラ整備をしています。こうした(インフラ整備の)取り組みをし、お客様に対して不実にならないネットワークを構築した上で、適正な料金で他キャリアと競争していかなければなりません。
―― しかし法人顧客の側からみると、“価格の安さ”はやはり訴求力があります。特に音声電話だと、その傾向は顕著です。
山本氏 そうですね、ですから最初のステップとして他キャリアと競争できる料金の音声サービスを用意する必要はあります。私はこの「音声サービスでの契約」も、KDDIのファンになってもらう“きっかけ”として重要だと考えています。
そして、ここから先が重要なのですが、まずは音声サービスでKDDIのファンになっていただき、その上でソリューションを提案します。(KDDIの携帯電話には)電話機以上の活用法があり、業務効率を向上し、生産性拡大のツールとして使っていただくのです。これをトータルで提供できるのがKDDIの強みです。ですから、音声サービスでの競争と、そこでの顧客獲得も「裾野を広げる」上では重要なのです。
―― 当初、音声サービスから導入し、その後にモバイルソリューションにアップグレードする事例というのは増えているのでしょうか。
山本氏 増えていますね。2007年は個人情報保護法への対応から、個人ケータイの業務利用を規制し、法人契約に切り替えるという事例が多かった。そのため音声サービスの需要が高かったのですが、我々はそこでASP型のパッケージである「ビジネス便利パック」を積極的に販売しました。ここでライトウェイトとはいえ、ケータイを“業務端末っぽく使う”という下地を作ったのです。
そして2008年は、このビジネス便利パックでご提供した“ケータイを業務端末で使う”というところから(導入企業の)ニーズがさらに深くなり、より本格的なモバイルソリューションの導入を検討していただける段階に入ってきている。そのような手応えを感じます。
2009年の鍵は、FMCとソリューション市場の拡大
―― 2009年はどのような姿勢で法人市場に臨むのでしょうか。
山本氏 2009年に狙うところは、大きく2つあります。
1つは「FMC型商品」の積極的な展開です。これはKDDIに限らずですけれども、これまで「移動体(モバイル)系サービス」と「固定系サービス」との連携はあまりうまくいっておらず、本当の意味で協調的なサービスやアプリケーションが提案できていませんでした。
しかし我々は今年、真のFMC型のサービスを展開してきたいと考えています。KDDI(の法人事業部)全体で、モバイルと固定を分け隔てることなく理解し、ソリューションの開発・提供ができるマインドと体制を構築しています。
2つめがモバイルソリューションの「裾野の拡大」を本格化することです。これまでモバイルソリューションを実業務で活用できているのは、日本の企業全体の10%未満である大企業が中心でした。今後は、それを広げていかなければなりません。法人市場のミドル層やエントリー層にも(モバイルソリューションの)市場を拡大していきます。
―― しかし、どちらも難易度が高いミッションですね。例えば、中小企業向けのモバイルソリューションの展開は、これまで多くのキャリアが挑戦してきましたが、成功例は多くありません。
山本氏 もちろん、大企業向けと同じアプローチではうまくいかないでしょう。この鍵になるのが、中小企業の業務に存在する“アナログ手作業を効率化する”ソリューションです。例えば、我々の商品ラインアップでは(バーコードリーダー搭載の)「E06SH」などは、そのままハンディターミナルとして活用できます。これによりモバイル環境で、リアルタイムに物品管理や在庫管理ができるようになるのです。
―― なるほど。ではFMC分野の見込みはいかがでしょうか。
山本氏 そこは内線サービスが重要になると考えています。日本のビジネスコミュニケーションでは、代表の固定番号で電話を受けて転送する、また社員同士が内線番号で連絡を取り合うという文化が定着しています。やはり、「090」や「050」だけではダメなのです。ケータイを用いた内線サービスは、今後の法人市場で特に重要な成長分野になるでしょう。
我々はこの内線サービス市場に「KDDI ビジネスコールダイレクト」という商品を投入し、積極的に展開していきます。
―― 法人市場における2009年の見通しはいかがでしょうか。
山本氏 確かに今は不況です。しかし、こういう時だからこそ、お客様の中にある潜在ニーズはむしろ顕在化しやすくなっている。コスト削減と生産性向上の両面で、法人向けモバイルソリューションの必要性は(好況時よりも)むしろ増しています。音声サービスのみの(法人)市場は厳しいかもしれませんが、モバイルソリューション分野や、内線サービスなどのFMC分野は、今だからこそ成長のチャンスも大きいと見ています。
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