車載システムやエレベーターにもMediaFLOを――FLO TVのストーン氏
日本でも、携帯向け次世代マルチメディア放送の候補技術に挙がっているMediaFLO。すでに商用サービスが始まっている米国の状況をFLO TVプレジデントのストーン氏が説明し、今後はパーソナルテレビや車載向け市場の開拓にも注力するとした。
2011年に終了するアナログテレビ放送。終了後の空き周波数帯に割り当てられる予定となっているのが、携帯端末向けの次世代マルチメディア放送だ。
VHF帯ハイバンドを利用した全国向け次世代マルチメディア放送の技術候補には、現行ワンセグの拡張仕様となるISDB-Tmmと米クアルコムが推進するMediaFLOなどが名乗りを上げている。ISDB-Tmmはドコモら5社による合同会社のマルチメディア放送とソフトバンクモバイル子会社のモバイルメディア企画、MediaFLOはKDDIとクアルコムが共同で設立したメディアフロージャパンが推進しており、それぞれが事業化に向けた検討を進めている。
メディアフロージャパン企画がユビキタス特区での実証実験を本格化させるなど新たな動きが見られる中、米FLO TVと米Qualcomm MediaFLO Technologiesのプレジデントを務めるビル・ストーン氏が来日。米国におけるMediaFLO方式のマルチメディア放送の現状と今後、サービスの認知拡大に向けた新たな取り組みについて説明した。
エリア拡大と新端末投入で利便性をアピール
米国では2007年に米Verizon Wireless、2008年にAT&TがMediaFLO方式のサービスを開始。両社の携帯電話の契約数を合わせると1億7000万に達し、FLO TVはこの大きな顧客基盤に向けてサービスを展開していることになる。サービス開始当初はカバーエリアなどの面で問題もあったというが、6月のアナログ放送の停波以降、エリアのカバー率が向上。「広さだけでなく密度もカバーできるようになった」(ストーン氏)ことから、通勤などの移動中や屋内でも楽しめるようになるなど利便性が向上している。
コンテンツについてもCBSやNBC、FOX、MTVといったメジャーな放送事業者がサービスを提供。米国でMediaFLOは複数チャンネルを組み合わせた有料サービスで提供されているが、有料放送の浸透率が高いという米国事情も手伝って抵抗なく受け入れられているとストーン氏。サイマル放送に加え、通常の放送とは異なる時間に番組を楽しめるタイムシフト放送を提供しており、“時間や場所にとらわれずに”番組を楽しめる環境が整ったと胸を張る。「ユーザーの1日の平均視聴時間は、現状では30分くらい。1月にすると900分くらいになり、通話するより長い時間をMediaFLOの視聴に費やしていることになる」(ストーン氏)
MediaFLOではライブイベント系のコンテンツが人気で、あまりの混雑でストリーミングではサポートしきれなかったマイケル・ジャクソンのメモリアルイベントも、放送波を使うMediaFLOでは問題なく視聴できるなど、その強みを発揮。ほかにはドラマや大人向けのアニメが注目を集めるなど、一般的なテレビとは異なる傾向が見られるという。視聴時間のピークも異なり、テレビではゴールデンタイムに近づくに従ってピークを迎えるところが、MediaFLOでは(ランチタイム後の)午後1時がピークとなり、早朝や夜中は下がる傾向が見られるそうだ。
端末ラインアップは、10月にHTC製のMediaFLO対応スマートフォンの「Imagio」がリリースされ、2010年に向けてこれまでの10機種から倍増させる計画。携帯電話型やスマートフォン型のさまざまな端末をAT&TとVerizon Wirelessに投入するとともに、FLO TVのブランド訴求も並行して行う考えだ。その一環として来週にはMediaFLO専用のパーソナルテレビ端末を投入。ホリデーシーズン向けに、6カ月分のサービス込みで249ドルという価格で提供する。
最近の携帯電話にはカメラやナビ、音楽プレーヤーなど、多くの機能が入っているが、それとは別に専用のカメラや音楽プレーヤーを持っている人も多いとストーン氏は指摘。有料のテレビ番組を楽しむ上でも、携帯電話とは別の専用デバイスを用意することで利用機会を拡大し、サービスの普及につなげたいとしている。
利用シーンの拡大策としては今月から、車載向けのMediaFLO端末の販売を開始する予定。現在、車内システムは米国内で2000万台が稼働しているとみられ、この市場でのユーザー獲得を目指す。当初は後付け販売でスタートするが、今後は車載システムに組み込んだ形での販売を目指すとし、自動車メーカーとの話し合いが進んでいるという。
すでにある機器に取り付けてMediaFLOを視聴可能にする周辺機器の開発もサポートしており、iPhoneやiPod touchに取り付けるアクセサリーも準備中だとストーン氏。「小さなディスプレイが入っているものにはMediaFLOを入れていきたい。携帯電話やパーソナルテレビから車載システム、エレベーターの表示装置にいたるまで、MediaFLOを提供したい」と意気込んだ。
今後はソーシャルメディアと連携したサービスも
現状はテレビ番組の配信を中心としたサービスを提供しているが、今後はスケジュールに従ってコンテンツを端末内にプッシュ配信するクリップキャストや、ニュースや天気予報、株価などの更新情報をリアルタイムで配信するIPデータキャスティングといったサービスを提供する計画。人気を博しているソーシャルネットワーク型サービスと放送を連携させたサービスも計画しており、「スポーツ番組やビジネス番組を見ている人同士が、Twitterでメッセージを交換したりできるようになる」ようなサービスも検討しているという。
MediaFLOはエリア面などの問題から、スローな立ち上がりになったとストーン氏は振り返る。現状の契約数は明かされず、「MediaFLO端末は10機種が商用提供されており、端末は少なくとも100万単位で投入されていることはいえる」というにとどめたが、エリアが整備され、端末ラインアップやコンテンツが充実してきたことから、今後は普及促進に向けた取り組みを強化する方針。ストーン氏は「まずは、こんなサービスがあるということを知ってもらう」ことが重要だと話し、パーソナルテレビや車載端末の販売に合わせてコンテンツプロバイダと協力し、マーケティングキャンペーンを展開することを明らかにした。
また、米国以外の国々にMediaFLOを採用してもらうためには、グローバルでオープンな技術として標準化される必要があるといい、そのために力を尽くすと明言。同社はまた、VHF帯をサポートし、MediaFLOのほかにワンセグをはじめとするさまざまな方式に対応するチップセット「MBP2700」も開発しており、10月からサンプル出荷を開始している。
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